第18話 サラの甘い匂い(1章最終話)

 バルデュックの街から、俺の部屋へ戻って来た。

 時間は、午前10時。


 電動スクーターは、大正解だったな。

 60万円以上したけれど、短縮された移動時間を考えると買って良かった。


 とりあえず金貨の入った袋をクローゼットの中に放り込む。

 稼いだ金貨全部を買い取りショップで売却したら、億越えでとんでもない事になる。


 税金もトンデモナイ額になるぞ。

 億越えだと半分近くを所得税で持っていかれる。

 市民税や保険料もバカ高くなる。


 そう考えると金貨を全部売って日本円にしないで、とりあえず必要な分だけちょこちょこ売った方が良い。


 収入が100万増えるくらいなら、副業で稼いだと会社にも言い訳できる。


 いや、それともいっそ、会社辞めるか?


 自分で会社を作って輸出入とかで稼いでいる事にするとか……。

 そっちの方が税金は安いか?


 日本の場合、税金や会計は確か発生主義。

 収入が発生した時点で――つまり取引を行った時点で、税金の対象になるはずだ。 


 金貨はどうなるのかな?

 収入扱いなのか?

 それとも『金貨』と言う商品とか在庫とかになるのか?

 

 えーと、現地の通貨単位はゴルドで、金貨は現地の貨幣になるから商品でなく現金になるのかな。

 なら、税金が発生……。


 いや、待て! 待て!


 そもそも稼いだのは日本国内じゃなくて、異世界になるよね。

 なら、税金を納めるべきは異世界の政府?

 異世界の場合は、政府じゃなくて領主になるのか。


 本店所在地――つまり俺の家があるエリア、そこの領主に税金を納めれば良い訳だな。

 アメリカでビジネスを始めたら、アメリカ政府と地元の州政府に税金を払うのと同じ事だ。


 あれ?

 この先、俺が領主になるよね?


 俺の領地で俺がビジネスをするなら、税金払わなく良くないっぽい?

 俺は税金を納める方じゃなくて、税金を取る方になるのか?


 うーん、保留!


 とりあえず金貨を日本円に両替したら、その分だけ収入として申告するようにしよう。


 なんか、商談や考え事をしたら、午前中から疲れてしまった。

 癒しが必要だ。


「サラ。ちょっと疲れたから横になろう。添い寝してくれ」


「はい。ご主人様!」


 俺がベッドで横になると嬉しそうにサラが隣に飛び込んで来た。

 ああ、サラの体が柔らかい。

 良い匂いがする。


「今日は偉かったぞ。お手伝いしてくれたな」


 サラの頭を撫でながら今日の事を褒める。

 布を出し、パワーストーンを出し、細々した事だが、お付き奴隷としてサラが動いてくれるから俺が偉そうに見える。

 俺は設定上の貴族だから、サラの動きは助かるのだ。


「ありがとうございます。ご主人様は凄いですね!」


「うん? 何が?」


「あんなに沢山の金貨を始めてみました! 凄いです!」


「そ、そうかな?」


「そうですよ! ご主人様は凄いです! 商売の才能があります!」


 うむ。

 サラに褒められると何だが本当にそんな気がして来る。


「サラに褒めて貰えると元気が出る。ありがとう! サラにこれをあげよう。左手を出して」


 ポケットの中からパワーストーンのブレスレットを取り出す。

 二色二種のパワーストーンを、いつも仕入れをしているパワーストーンショップで俺が選んだ。


 ピンクのローズクォーツは、恋愛運、美しさをアップする。

 白いホワイトオニキスは、魔除けだ。

 サラは呪いをかけられて声が出ないでいた。

 もう、そんな事がないように縁起を担いだわけだ。


「いただいて、よろしいのでしょうか?」


「ああ。サラの為に選んだんだ。受け取ってくれ」


 サラの左手にパワーストーンブレスレットをつけてあげると、嬉しそうに笑った。


 「じゃ、俺の左手にこれをつけてくれ」


 ポケットからもう一つ、俺用のパワーストーンブレスレットを取り出す。

 俺のは黄色と黒のコンビだ。


 黄色のタイガーアイは、商売繁盛、金運アップ。

 黒のブラックオニキスは、魔除け、成功をもたらす。


 まあ、全部パワーストーンのお店の受け売りだけどね。


 サラが俺の左腕にパワーストーンブレスレットをつけてくれた。

 種類は違うけれど、おそろいだ。


「少し眠ろう」


「はい、ご主人様」


 スマホのタイマーをセットして、三十分ばかりウトウトしよう。


 明日からは、また会社だ。

 うるさい上司と面倒な仕事が俺を待っているが、今は忘れよう。


 サラの甘い匂いに包まれて俺は幸せだった。

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