第8話 ハーフエルフの性奴隷サラ

「それではこちらへ。彼女は別室で支度をさせます」


 奴隷商人のブッチギーネに案内され応接室に座る。

 リュックから金貨の入った革袋を取り出し、150万ゴルドを支払う。

 これで残金は340万ゴルドだな。まだ余裕だ。


 ブッチギーネが注意事項を告げて来る。


「奴隷には衣食住を与えて下さい。奴隷は主人の所有物ですから、どのように扱っても構いませんが、あまり酷く虐待する事は避けて下さい」


「わかった。何か罰則とか、法律があるのか?」


「いえ、特にはございません。ただ、奴隷は貴重な財産です。上手に使えば、奴隷は主人に富をもたらしてくれますし、体を張って主人を守ってくれます。それを虐待するなど愚かな事だと世間に後ろ指をさされます」


 なるほど。

 日本でもペットを虐待すると叩かれるからな。

 それと似たような物か。


「わかった。心得ておこう。そう言えば彼女の名前は?」


「奴隷に名などございません。必要でしたら、主人のミネヤマ様が名付けて下さい」


 奴隷を虐待するなとか大事にしろとか言っていた割には、名無しかよ。

 矛盾している。


 ドアがノックされて、俺が買ったハーフエルフが入って来た。

 こうして近くで見ると……やっぱり可愛いな! 買って正解!


「では、奴隷の契約をいたします。この針を指先に差して、ミネヤマ様の血を一滴、奴隷の首輪に垂らして下さい」


 ハーフエルフが俺の前にひざまずいた。

 髪をかき上げて、首輪が見えるようにする。


 奴隷商人のブッチギーネが何か呪文を口にしている。

 俺は針で指先を刺し、血を一滴首輪に垂らした。

 すると首輪が光り、次いでハーフエルフが光に包まれた。

 光は一瞬で止んだ。


「これで奴隷契約が完了いたしました。この奴隷の首輪をつけている限り、主人に害をなす事は出来ません。また、奴隷の首輪をつけている限り主人の命令には逆らえません」


「そう言う魔法なんですね?」


「左様でございます。首輪が魔道具です。首輪を外すと魔法の効力が無くなるのでお気を付けください。命令する時は『これは命令だ!』と、はっきりと命令を明示して下さい」


「わかった」


 あやふやな依頼や希望に、奴隷は縛られないと言う事か。


「では、またのご利用をお待ちしております」


 ハーフエルフ奴隷と奴隷商人の店を出た。

 さて、これからどうしたモノだろうか?


 腕時計をみるとまだ朝の八時だ。

 この異世界は朝が早い。

 六時頃から動き出すからな。


 俺の後ろに立っているハーフエルフを見る。

 とりあえず自己紹介しとくか。


「俺はミネヤマだ。魔の森の中に家がある。魔物との戦闘は任せるから、よろしくな」


「……」


 奴隷のハーフエルフは無言で頭を下げた。

 彼女は茶色い長ズボンに、白い生成りのシャツ。

 左腰に剣を吊るして、右手に弓を持っている。

 矢筒を肩からぶら下げているだけで、荷物は持っていない。


 着替えとか必要かな?

 あと名前も付けてあげないと。


「えーと、呼びにくいから君に名前を付けたい。良いかな?」


「……」


 コクリと肯く。

 名前ねえ。


 さて、困った。

 女の子に名前なんて付けた事がないぞ。

 

 芸能人の名前をもじるとか?

 それだと、『大人向けの女優さん』みたいになりそうだな。


 うーん……。


「じゃあ、サラって名前で良いかな?」


「……」


 コクリと肯く。

 結局、芸能人の名前をもじってサラにした。

 ただ、彼女のリアクションを見るに名前を気に入ったのか、イヤなのか分からない。

 緊張しているのかな?


 うん、多分そうだよな。

 初対面の人間がご主人様だと言われても、どんな人なのかもわからないし、そりゃ緊張するよね。


 まず、仲良くならないと……。

 えーと、どうしよう……。

 そうだ!


 俺は右腕に着けていたローズクォーツのブレスレットを外して、サラに見せる。

 そう、プレゼント作戦!

 これでちょっとでも仲良くなれればラッキーだ。


「これは俺が母親から貰った物だ。サラにプレゼントするよ」


 サラが驚いて顔を上げる。

 俺はサラの左腕を取って、ブレスレットをつけてあげた。

 ああ、サラの手は柔らかいですね。


 四十歳独身貴族は、生きていて良かったと、今実感しているのですよ。

 サラの手を握って、そのまま念じる。


「サラが元気で健康でありますように」


「……」


 サラが少し笑った。

 喜んでくれたみたいだ。

 まあ、健康を念じたのは、そのまま手を握っていたかったからなんだけどね。


 さて、次は……。


「サラ。買い物がしたいのだけれど、服屋とか商店が多いエリアはわかるか?」


「……」


 サラは肯くと先頭に立って歩きだす。

 サラの後をついて行くと十分ほどして、商店街についた。


 店の前に商品を並べ吊るしてあるから何屋かわかりやすいな。

 服屋、雑貨屋、武器屋、防具屋、このあたりは服装品の商店が多い。

 通りを歩く人も革鎧に剣や槍を装備した冒険者が目立つ。


 服屋に入ってシャツを手に取って見る。

 これは中古かな?

 サラが着ているような白っぽい生成りの長そでシャツだ。

 素材は綿かな?

 造り自体はしっかりしているが、デザインは野暮ったい。

 生地は厚手でしっかりしているが、ゴワゴワして肌触りは悪い。


「いらっしゃいませ。何かご入用ですか?」


 人族の中年おばさん店員が出て来た。


「これは中古ですか?」


「そうですよ」


「新品はないのですか?」


「ウチは扱ってないですね。新品の服なんて貴族様や金持ち向けの店じゃないと売ってないですよ」


 なるほどね。

 庶民は中古の服と言う事か。


「このシャツはいくらですか?」


「一万ゴルドです」


 高いのか安いのか良く分からない。

 こればっかりは色々な物の値段を聞いて、金銭感覚を身に着けるしかないか。


 服は日本で買った方が良いかもしれないな。

 まあ、こちらの異世界服も一応持っておくか。


「俺と彼女の服をひと揃え欲しい。サラ! 好きな服を選んでくれ! 俺の服は、適当に見繕って下さい」


「じゃあ、動きやすい服を選びましょうかね」


 服選びはサラとおばちゃんに任せて店の外に出る。


 雑貨屋をのぞく。

 大きな布製のリュックサックが5万ゴルド。


 武器屋をのぞく。

 鉄製の剣が10万ゴルド。


 防具屋をのぞく。

 何かの革製の鎧が20万ゴルド。


 屋台を発見。

 何かの串焼きを売っている。


「一つもらえるかな?」


「あいよ! 200ゴルド!」


 肉の串焼きが200ゴルドか。

 食べ物は安いのかな?


 リュックから金貨を出す。


「これで」


「ちょっと! 屋台で大金貨なんてやめてくれよ! そこの両替屋でくずしてきてくれよ!」


「両替屋? わかった」


 串焼き屋台のすぐそばに秤の絵を書いた看板を出している店があった。

 なるほどここが両替屋ね。


 両替屋に入って、金貨をくずしてもらう。

 俺が持っているのは大金貨と呼ばれる高額貨幣だった。

 両替屋で教えて貰って、この世界の貨幣がやっとわかった。


 大金貨:10万ゴルド

 金貨 :1万ゴルド

 銀貨 :1000ゴルド

 銅貨 :100ゴルド


 手数料1000ゴルドを取られたけれど、まあ、勉強料と思えば良い。


 ブラブラを再開する。


 定食屋をのぞく。

 定食が1000ゴルド。


 別の定食屋をのぞく。

 定食が800ゴルド。


 食べ物を基準に考えると、1ゴルド=1円の感覚で良さそうだ。

 服、リュックとか、工業製品は、日本よりも割高感がある。

 剣、革鎧とか、職人が手作業で作る物は、妥当な値段なのかな……。


 服屋に戻るとサラが服を選び終えていた。

 同じようなデザインの白シャツと同じようなデザインのグレーの長ズボンだ。

 デザイン的にパンツと言うよりもズボンだね。

 日本のようにデザインが豊富じゃないので、選択肢があまりないみたいだ。


 俺の服は、茶色のズボンと白のシャツ。

 四点で合計4万ゴルドを支払う。


 俺のリュックに詰め込んで店を出た所で、誰かが俺を呼び止めた。


「ご主人様!」


 誰だろう?

 若い女性の声だけど?


「ご主人様!」


 後ろの方から声がする。

 振り向くとサラがいるだけだ。


「ご主人様!」


 うわっ! サラが喋った!

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