第9話 パワーストーンの力

「えっ!? サラは声が出ないんじゃ!?」


「はい! そうです!」


「いや、でも、今、普通に喋っているよね」


「それが急に声が出るようになったのです!」


「ええっ!」


 それは、どうして?

 まあ、良かったけど。


 サラはオロオロしている。

 明らかに動揺しているな。


「そ……、それで申し訳ございません! 先ほどいただいたブレスレットが……」


「ん? ブレスレットがどうした?」


 サラが左腕を上げてブレスレットを見せて来た。

 ローズクォーツのブレスレットは、どす黒く変色していた。


 ローズクォーツはピンク色の美しいパワーストーンだ。

 ピンク色で透明な水晶なのだ。


 だが、サラのブレスレットは、ドス黒く変色してしまっている。


「うわっ!」


「申し訳ございません!」


「これはどうしたら……。そうだ! 宝石商のイシルダに見てもらおう!」


 イシルダは宝石の専門家だし、あそこは魔法使いや魔道具士がいたから、何かわかるかもしれない。

 サラは場所がわからないと言うので、あちこち聞いて回ってイシルダの店に向かった。


 店に入るとイシルダはサラのブレスレットを一目見て、厳しい表情で告げた。


「これは……! 不味いですね……。すぐに教会へ向かってください! 浄化する必要があります!」


 浄化?

 一体何の事だか、わからない。


 宝石商の店を出て教わった教会に飛び込んだ。

 真っ白い服を着た年輩の神官がいたので、すぐに声を掛ける。


「すいません!」


「こんにちは。聖教会へようこそ。ご用はなんでしょう?」


「宝石商のイシルダさんから、こちらを紹介されました。このブレスレットをすぐに浄化しろと!」


 サラのブレスレットを見せると神官の顔色が変わった。


「これは酷い! すぐに浄化しましょう! さあ、この聖杯にブレスレットを入れて下さい」


 神官は祭壇にあった黄金のカップを両手で持った。

 あれが聖杯か。

 不謹慎だがゴルフの優勝カップみたいだ。


 サラがブレスレットを外して聖杯に入れると神官はすぐに水を注いだ。

 神官が何か呪文を唱える。


 すると聖杯が激しく光った。

 何かの声……『オオ!』とか『アア!』とか、ゾッとする声が聞こえた気がした。


「ふう。浄化に成功しました」


 神官が聖杯を見せてくれた。

 聖杯の中には何も残っていなかった。

 しかし、今のは何だったんだ?

 疑問だらけだ。


「ブレスレットが黒く変色したのは、何だったのでしょうか?」


「あれは呪いですね」


「呪い!?」


 神官はサラっと怖い事を言った。

 呪いなんてあるのか?

 いや、ここは異世界なのだから、呪いがあっても不思議はない。


 神官はサラに優しく話しかけた。


「そちらのあなた。体に不調があったのではありませんか?」


「はい。声が出ませんでした。話す事が出来ませんでした」


「それは呪いのせいですね。呪いは先ほどのブレスレットに吸収されました。そして浄化をいたしましたので、もう安心ですよ」


「ありがとうございます!」


 はあ。良かった。

 サラの声も出るようになったしめでたしめでたしだ。


「それでは恐れ入りますが、教会に浄財を……」


 浄財……ああ、寄付の事ね。

 呪いを浄化してもらったのだから、お礼をしなくちゃね。


「あの、おいくらほど寄付させていただければ良いでしょうか?」


「10万ゴルドほど」


 高いのか安いのか……。

 定食1000ゴルドと比べると高いが、鉄剣10万ゴルドを考えると安いか?


 まあ、とにかくサラの呪いが解けて、声が出るようになったのは良い事だ。

 目出度い!


「では、この大金貨を一枚、10万ゴルドを教会に寄付させていただきます」


「ありがたく……。あなた方に神のご加護があらん事を……」


 神父は金貨を恭しく受け取った。

 でも、顔は嬉しそうだぞ。

 まあ、誰しもお金は嫌いじゃないさ。


「神官殿。教えていただきたいのですが――」


 俺は神官にこれまでの経緯を説明した。

 サラがしゃべれなかった事。

 今朝、ローズクォーツのブレスレットをプレゼントした事。

 しばらくしたら、どす黒く変色した事。

 突然、サラの声が出た事。


「恐らく、あのブレスレットが呪いを吸い取ったのでしょう。そういった魔道具があります」


「呪いを吸い取る魔道具……。あれは母に貰った普通のブレスレットですが?」


「ふむ……。あなたのお母様も魔道具とは知らなかったのではないでしょうか?」


「そうですか……。参考になりました。ありがとうございました」


 教会を出て、どこへ行くでもなくブラブラ歩きながら考えた。


 神官の説明にはイマイチ納得出来なかったが、『ブレスレットが呪いを吸い取った』と言うのはあり得ると思った。


 おかしな点は、あのブレスレットだ。

 あれは本当にただのパワーストーン・ブレスレットでこの世界で買った魔道具じゃない。

 母が趣味で作った、普通のブレスレットだ。


 なのにサラにかけられていた呪いを吸い取った?

 うーむ……。


 魔道具ねえ。

 いや、ウチの母親は普通の専業主婦だからね。

 母が作ったパワーストーン・ブレスレットが、魔道具って事はないだろう。

 

そうすると、パワーストーン、あのローズクォーツの力が呪いを吸収したと言う事かな?


 この世界でパワーストーンは、予想外の効果、あり得ない力を発揮すると言う事だろうか?


「あのご主人様! ご主人様!」


 サラに後ろから呼び止められた。

 いかん、いかん。

 一人で思考の沼にハマっていた。


 いかに有能な四十歳独身貴族でも、答えが出せない事もあるのだ。

 この件は保留にしておこう。


「ごめん、ごめん。ちょっと考え事をしていたよ。放置してしまってすまないね」


「いえ! それより、折角いただいたブレスレットをダメにしてしまいました。申し訳ございません」


 サラは本当にすまなそうに頭を下げる。

 うーん、素直で良い子だ。


「気にしないで良いよ。サラ」


「でも、お母様から貰った物ですよね?」


「大丈夫。母が趣味で作った物で、形見と言う訳ではないですよ」


「しかし……」


「母の作った物のお陰でサラが声を取り戻せた。母にそう告げれば『人の役に立って良かった』と喜ぶはずです」


「そ、そうですか。ありがとうございます」


 少しサラの表情が和らいだ。

 うん、良かった。


 さて、これからどうするかな。

 時間はお昼の11時。

 家に帰るにしても、これから街を出ると魔の森の中で夜になってしまう。

 それは危険だろう。


「サラ。どこか行きたい所とか、買いたい物とかあるか?」


「いえ。特にありませんが。ご主人様の家に戻るのでは?」


「これから戻ると夜になるんだ。危ないから、この街にもう一泊しよう」


サラも特に行きたい所はないか。

それなら……今後、商売の役に立つ所へ行きたいな。


パワーストーンを宝石商へ売って、結構な金額になった。

他にも売れる物があるかもしれない。


そうだ!

商業ギルドとか商人ギルドは無いのかな?


「サラ。この街に商業ギルドとか、商人ギルドはないかな?」


「ありますよ。奴隷商人ギルドと商人ギルドがあったはずです」


奴隷商人ギルドなんてのがあるのか……。

奴隷商人はブッチギーネ一人ではないと言う事だ。

つまりは……もっと金を用意すれば、他の性奴隷も……。


ゲフン! ゲフン!


いや、それよりも今は商売だな。

この世界の大金貨は日本で15万円になる。

この世界で金を稼いでおいて損はない。


「じゃあ、商人ギルドへ行こう!」

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