第二章9 『決着②』
全身を包む黒のロングジャケットから伝わる熱が蒸し暑くて堪らない。
ズボンや靴も、髪の毛でさえ同色で統一されており、汗ばんでいる。
それが余計に『
「はぁ…はぁ…」
辛うじで立ち上がり、覚束ない足で地を踏みしめる。
周りの炎に目を向け、天を見上げ、暗雲があることを確かめる。
何故か半分ほど切れ目が入り、陽が差しているのが疑問ではあるが、最後の仕事に取り掛かろうと思う。
「できるか……?」
魔力は切れ、翼はもう生やせない。
両手を天に掲げたところで、魔法は発動しない。
けれど、この身を犠牲にすれば、残り一つくらいはできなくもない。
そこまで街に思い入れはないし、街には知り合った程度の存在しかいない。
なら何故、そこまでするのかと聞かれれば、単純に見過ごせないから。
困っている時に誰も助けてくれないというのは、痛いほどわかる。
自分の過去と重ねて嫌になるがために手を差し伸べてしまう。
交わした約束を破られれば悲しい思いをする。
だからこそ守りたいし、見捨てられない。
「……っ!」
天に向かい眼光炯々と魔力を必死に絞り出す。
全身に力を込め、細胞という細胞から捻り出さんとする。
「ゔおおおっ!!」
声を荒げ、掌で風をつくり空に放ち、雲をかき混ぜる。
すると再び雲が街全域を覆い、影ができる。
さらに周りの火にも風を当て、大きく燃え上がらせる。
「来い……っ!」
瞬間、一滴の雫が落ち弾ける。
一滴、また一滴と粒は増え、数えきれない量が降り注ぐ。
「ふ」
狙い通り天気を操ることに成功し、笑みが零れる。
地上を上空より熱くすることで上昇気流が生まれる。
風によって火の勢いを増し、上昇気流を強くする。
そうすることで、雨雲はできあがる。
「―――」
安堵と同時に身体は倒れ込み、雨に打たれる。
意識はあるものの、凄まじい眠気が襲う。
そこに抗う理由もなく、素直に瞼を閉じてしまう。
意識が途絶えるという中で、雨の音は最後まで耳に残っていた。
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