第二章8 『淡彩③』
『闇とは、全てを飲み込む混沌。あらゆるモノを
魔導書をパタリと閉じて、実践へと移行する。
講義を居眠りしておきながら、実践だけは張り切っていた。
そんな凜を眺めながら、シスターに聞いたのだ。
『闇って、光より凄いの?』
『五行魔素』『心象魔素』と属性を学び、より強い力を極めようという子供の発想。
ただ単純に興味本位の質問だった。
『光とは、この世を照らす太陽のように調和を齎す一筋の希望』
突然、シスターは『心象魔素』の光における一説を口ずさむ。
おそらくは光と闇が相互関係にあり、どちらが強いかなどと明確な定義はないから。
それがため、対になる光の概念についておさらいさせ、わからせたかったのだろうと、今になって思う。
『羽亮は光を鍛えなさい』
『鍛えなさいって、鍛え方がわからないよ……』
『心象魔素』は心の持ちようによって割合が異なる。
善人であれば光が強く、悪人であれば闇に傾く。
憎しみや怒りに囚われ、罪を犯すなど、悪事を働けば闇は濃く洗練される。
対し光は、何を持ってして善とし強固なものになるのかは逆説的に見ても曖昧だった。
『そのまま、純粋なままでいてくれればいいの』
『そのまま?』
具体的に何をすればいいのか。
鍛えろというわりに現状維持を申し付けられる。
益々、どうすればいいのかわからなくなる。
『闇は手名付けるのが簡単なようで、難しい。あまりの強さに誰もが惹かれ、知らぬ間に侵され堕ちていく』
闇ほど強大な力に魅了され虜になったものは、自分を奢り他者を見下す。
闇を征したと思えば、逆に取り込まれていたのだと知る。
深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている。
そういう事例は、よく聞く話であった。
『だから、光であるのはもっと難しい』
人は闇に染まりやすく、絶望に弱い。
どれだけの人が希望を抱き、前のめりに生きて行けるか。
光であれというのは、何ものにも屈しない、人々を照らすほどの強い心を持てと。
そういう意味合いではないのかと、今になって思う。
『羽亮には、そうなって欲しくないな……』
とても儚い、どこか悲しげな笑み。
その意味が当時はよくわからなかった。
けれど今なら、シスターの危惧していたことが理解できる。
知ってしまったからこそ、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
気づいた時にはもう、手遅れだと言わんばかりに闇の洗礼を受けていた。
あの日を境に――。
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