第二章7  『苦戦③』

 目の前にいる《オーク》の足が頭上にある。

 下には冷たい土の感触があり、這いつくばった自分がいる。


 山賊の首領である『バオギップ』の《アイアン・ハンマー》による攻撃で、身体が重い。

 未来の力を手にし、心のどこかで浮かれている節があったために油断した。


 だから今、見下される側にいる。


「ざまぁねぇっすね……」


 調子に乗って、力を出し惜しみした所為で、地面に転がっている。

 そんな自分が情けなく、我ながら呆れてしまう。


「どっちがだ」


 自分に対して呟いた言葉に何を勘違いしているのか、バオギップが反応する。

 徐々に身体の痛みは薄れ、動かせそうになって来ているというところで、翳された足が振り下ろされる。

 この一撃は避けようがなく、反射的に目を瞑りそうになる。


「……っ!」


 そこへ介入する爆発音。

 気づけば、バオギップの注意が逸れ、動きが停止していた。


「なんだっ!?」


 視線の先からして、羽亮がいる方角だと瞬時に理解する。

 派手に暴れているおかげで、バオギップに隙が生じている。

 それを機に両掌の一点に魔力を集中させる。


 形状はトルネード、威力は相手を吹き飛ばす疾風、圧縮をかけ噴射する。


「くっ!?」


 足元を目掛けながら、バオギップは電車道をつくり耐え忍んでいる。

 けれど狙いは、倒すことではなく態勢を立て直すための時間稼ぎ。


 それがため、地面を掠めるように風魔法を放ち、土煙を巻き上げた。

 敵と距離を置く目眩ましであり、身を潜めるべく講じた逃げの一手だった。


「あの野郎……っ!」


 案の定、バオギップの前から姿を消すことに成功し、火の手の回っていない民家の路地裏に隠れ、一休みする。


「どこ行った!?」


 当分の間は見つかることはないが、火の勢いによっては、危機的状況であることに変わりはない。

 最悪、見つかりそうになれば、窓から建物の中に侵入することでやり過ごせる。

 とにかく今は、現状を整理し、作戦を練ることにする。


「クソガキがぁああ!!」


 しかしどうやら、バオギップの怒りは最高潮に達したようで、策を弄したところで無意味に思えてくる。


 もうバオギップに恐れを抱く自分はいないが、過信もいいところ。

 敵を侮っては相手と同じ、いずれ痛い目を見る。


 だから自惚れるのはやめにしようと、改めて思う。

 軽く嘆息したのち、少しだけ前の自分に戻る。



 口先ばかりで、非力な自分に――。


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