第二章5  『覚醒②』

「おいらは……」


 飛び立った羽亮を後目に手渡された白銀の羽を見つめる。

 羽亮が寂しそうな顔をしているのは、自身が人々から嫌われる『フェザー』であるから。

 思ってもみなかった羽亮の正体に戸惑いが絶えない。


 容赦なく突きつけられた現実の最中、迫られたのは未来への決断。

 あらゆる可能性を捨て、一つを選択せねばならない。

 迷えば迷うほど時は過ぎ、街は刻一刻と燃やされていく。


「落ち着け、落ち着け……」


 呼吸を整え、気を取り直す。

 今は考えるべき時だと、焦る心を沈ませる。


「おいらに魔法を教えてくれたのは誰だ? おいらたち街の皆を救おうとしてくれているのは誰だ?」


 自問自答を繰り返し、自分にとって最も大切なモノは何なのか見定める。

 一つずつ答えを導き出していけば、自ずと道は開かれる。


「羽亮がフェザーだからなんだ?」


 『魅剣羽亮』はフェザーである。

 フェザーは人々から忌み嫌われた存在である。


 けれど実際は、どうだったのか。


 話した限りは素直そのもの。

 美味しそうに食事する様は、人となんら変わらない。

 眠る姿は、まるで幼子。


 一体、人と何が違うのだろう。


「羽亮は羽亮だ!」


 背中に翼を持った人型生命体。

 世間の偏見と憶測で塗れたフェザーの存在など、嘘偽りだらけでしかない。


 自分は、自分が目で見て感じた羽亮を信じる。

 人であろうとなかろうと、恩人に変わりはない。


「そして、おいらは……」


 焼き尽くされようとする街を目に歯を食いしばる。

 自分は一体、何に迷っていたのだろうと。

 答えはとてもシンプルで、分かり切っていたことだというのに。


「この街を……守りたい!」


 息をするのでさえ苦しく、少しの振動でも身体に響く。

 そんな痛みを堪えて、立ち上がる。


 掲げた羽は白き光を放ち、辺り一帯を包み込んでいく。

 白く眩しい世界の中で、胸には、誰にも負けない覚悟があった。



「―――」



 光に飲み込まれて、どれくらいの時が経過したのか。

 とても長いように思えながら、一瞬の出来事で。


 自分は、どんな未来を選択したと言うのか。

 いささか検討もつかなかった。


「これは……」


 しかしそれも、短い疑問に過ぎず。


 何よりも変化を齎した自分の姿に目は釘付けとなる。

 見た目だけでなく、体には秘められた何かがあることを感覚が教えてくれている。


 いつか手に入れる未来の中から、自分はどうやら当たりを引いていたようだった。


「これなら……」


 気づけば身体の痛みは消え、怪我は紛れもなく完治している。

 羽亮に追いつくために自分も空を飛べないか思考を働かせる。


「風に……乗る?」


 ふと脳裏に浮かんだのは、とある飛空術。

 やり方を知らないはずなのに身体は自然と動く。


 目の前に小さく圧縮した、風魔法である《ウィンド・ストーム》を作り上げ、何も考えることなく上に乗る。

 竜巻が身体を支え、上昇することを思念すれば、徐々に空へと近づいていく。


 まるで、慣れ親しんだ動作だった。


「行くっすよ!」


 おそらくは、未来で自分が編み出したものなのだろうと納得する。

 その後、一気に加速し、街を見渡すべく停止する。


「ひでぇな……」


 街の3分の1が焼き尽くされていく有様。

 急がねば、《プロスパー》が全焼しかねない。

 そして不思議なことに住民が見当たらない。


「あれは……」


 すると丘の上に多数の人影が見え、シエラがこちらに手を振っている姿がある。

 どうやら避難が済んだことによる合図のようで、あとは山賊を撃退するのみだった。


 山賊に飛ばされた方向を見やり、足元の《ウィンド・ストーム》に雷属性の魔法である《サンダー・ボルト》を放つ。

 それが加速装置となってか、光速のスピードを見せつける。


「《疾風迅雷》、か」


 この魔法の名前とでも言うのか。

 文字通りの意味合いが現実となっている。

 未来の自分は何を持ってして、こんな技を生み出したのか疑問に思う。


 ただそれは、きっと今と似たような状況であったのではないかと。

 より多くの人々を救うために逸早く駆け付けようという。


 そういう経緯なのだろうと、想像する。


「全速前進だぁ!」


 悩みを解消し肩の荷が下りたのか、表情筋が緩んでいる。

 自分を縛り付けるものは、何もない。


 山賊に対し臆する気持ちなど、もうどこにもなかった。


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