第一章9  『決別の裏切り④』

「自習か~……」


 いつも通り学院へと向かい、一限目にして『如月きさらぎ龍司りゅうじ』は暇を持て余す。

 机に伏せ、退屈ながらにあたりを見回す。


 周りは勉強に励むもの、ゲームを手に団欒する男子、会話に花を咲かせる女子など、様々に時間をつぶしていた。


 ふと背後に目をやるも、今日も彼は席にいない。

 『魅剣羽亮みつるぎうりゅう』はまたしても、遅刻か欠席か。

 面白味の欠ける現状にため息が零れてしまう。


「暇だぁ~」


「そうだね」


 裏声交じりの嘆きに賛同するは、小さい頃からの友人『月島颯斗つきしまはやと』。

 苦笑したのち、彼は視線を窓に移す。

 隣の彼が険しい表情であることは、反射越しに見て取れた。


「今日はお嬢もお休みだし」


 お嬢『花園華聯はなぞのかれん』とも、昔からの交友がある。

 長い付き合いの三人を世間では、幼馴染と呼ぶ。


 真面目で有名な彼女が学院を休むのは珍しいことで。

 颯斗は少なからず、華聯に好意を寄せている節がある。

 ただそれは憶測であって、確証のあるものでもなく。


 華聯は貴族であり、彼女は平民である魅剣羽亮にぞっこんで。

 颯斗もまた、魅剣羽亮が好きなのだと。

 それ故に鎌をかけようにも、言葉を見つからず。


「なんか、嫌な予感がする」


「……?」


 先に口を開いたのは、颯斗の方だった。


「羽亮が休みなのは仕方ないとして、お嬢まで休みだなんて」


「ああ……」


 彼が休みならは、昨日にあったフェザーとの戦闘によるものだと断定できる。


 けれど華聯が休みというのは、不思議なことで。

 羽亮の看病でもしているのかと思うも、それを父である花園先生が許すとも思えない。


 それがため、不思議ではある。


「それに今朝、フェザーが現れて……」


「考えすぎだろ」


「昨日と立て続けにだよ?」


「……」


 今までにないことが積み重なって、不安を煽るのか。

 颯斗の表情は暗く沈んでいく。


 なんと声を掛ければいいかわからず、沈黙した刹那。

 教室の扉がガラリと音を立て、教室は静まり返る。


 教壇へ目を向ければ、担任である『花園彦内』先生が佇んでおり、その表情はいつになく真剣な趣だった。


「皆さんにお知らせがあります」


 ゆっくりと口を開き、今朝のフェザーについて軽く説明をする。


「ぇ……」


 不穏な空気に知らされたのは、信じられないもので。

 何が起こっているのか、理解できずにいた。


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