第一章9  『決別の裏切り③』

 今日の学校は休むということで、娘をベッドに寝かせ。

 思い人が遠くへ行ってしまったのだから無理もないと、納得する。


 そうやって、華聯と別れてしばらく。


 学校へと向かうと、やはりとでも言うべきか、立て続けに出没したフェザーの話題で持ち切りで。

 昨日今日で二度目の緊急会議が開かれていた。


「今回の議題は皆さんお気づきの通り、今朝現れた『黒白こくはくのフェザー』についてです」


 円卓に腰掛け、三つのビジョンの真ん中に空を舞う、黒い左翼に白い右翼のフェザーが映しだされ、職員は黙然と眺める。



 残り二つのビジョンには、黒陰国王――《レイヴン皇》と、国家直属の騎士団――『七聖剣』が周りと同様の表情を見せていた。



「その正体は伏せられていますが、この学院高等部生徒の『魅剣羽亮』とのこと」


 司会の淡々たる説明に周りは驚愕する。



 ――そして、



「彦内氏、間違いありませんね?」


 その視線が一気にこちらへと集中する。


「はい」


 今朝の出来事から、こうなることはわかっていたため、動揺することなく相槌を打つ。

 庇うわけでも、家族を売るわけでもなく、ただありのままを口にする。


 魅剣羽亮が残した救いの手を。

 彼の思いを無下にしたくはない。


 ただそれだけを一心にこの場に立っていた。


「それで、本題は?」


 そんな覚悟など知る由もなく、ビジョンに映るあかい鎧に身を包んだ青年。



 七聖剣団長――《炎帝》『鬼嶋天芯きしまてんしん』。



 普段はおおらかなはずの彼がつまらなそうに話を聞いている。

 それが少しばかり、癇に障った。


「まさか花園家の断罪ですか?」


 そこに一人、ふくよかな体系をした年配講師が口を開ける。


「それはないでしょう。比較的、貴族としての歴史は短くとも、優秀な名家ですよ。それこそ国の損失です」


 また一人、貴人のようにピンクと薄紫のドレスを着飾った女講師が口を開く。


「ならば、何を?」


 講師一行は小首を傾げて、ざわめき始める。



 その光景をビジョン越しに眺める黒陰国の王――《レイヴン皇》。



 司会は、「静粛に」と声を上げると、本題に移る。


「今ここで行うのは『魅剣羽亮』の処分」



「「「「「―――」」」」」



 司会の放った言葉に空気は一変する。

 辺りは開始よりも一際淀み、静まり返る。

 唖然とする皆に司会はまた、追い打ちをかけるように口にする。


「彼を敵と見なすのか否か、ここにいる皆様でご決断いただきたい」



 司会の名は――『レフリー・プロンプト』。



 黒陰国における、罪人の処遇を振り子に掛ける謎多き平和の使徒。

 その名の通り、判決を促す者だった。


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