第一章9  『決別の裏切り②』

「ん……」


「起きましたか」


 ふと瞼を開けて、聞こえた父の声から既視感を覚える。


「全く、昨日今日で困った子ですね」


 呆れ声を耳に朦朧とした意識の中、真っ先に彼のことを思い出す。


「羽亮は……」


 徐々に蘇る記憶を胸に途方に暮れる。

 助けるどころか、裏切ってしまった。


「さっき旅立ちました」


「ぇ……」


「私たちを守るために」


 父に背負われ、空を見上げる姿が寂しげで。

 地面には陽の光を浴びて輝く白と黒の羽が落ちていて。

 それだけで、何があったのか察した。


「私……私っ」


 父の背に顔を埋め、酷い罪悪感に駆られる。

 何もできず別れを迎え、彼の『ごめんね』と『ありがとう』が痛く胸を抉る。


「羽亮に酷いこと言っちゃった……っ」


 泣くことしかできない現状。

 自分を責めることで楽になろうとしている。

 そんなことをしても、『魅剣羽亮』は帰って来ないというのに。


「もう、謝ることもできない……っ」


 会うことすらも叶わない。

 取り返しのつかないことをしてしまった。


「……彼に会いたいですか?」


「うん……」


「なら、会いに行けばいい」


「どこにいるかもわからないのに……?」


 それ以上、何を言うこともなく。

 何を考えているのか、押し黙る父に違和感を覚える。


 けれど結局、今は会えない彼のことばかり考えて。

 幸せな思い出に浸って。


 そうやって、現実逃避をすることしかできずにいた。


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