第一章7  『片剣を手に――②』

 瞼を持ち上げると、暗がりを蝋燭の灯が足元の石床レンがを照らしている。

 鉄船に担がれている状況から、来た道を戻っているのだと理解した。


「なんだ、目が覚めたのか」


 そう鉄船がぼやくも、右腕に視線を移し、未だ黒々とした右腕にふと思う。


「なぁ……」


「なんだ?」


「店にあった、スペルディウス。あれは……」


 出会った際に使えれば貰えると言われた剣は、展示されたまま、別世界へと移動して、召喚されたスペルディウスを手にした。


 ならば、のスペルディウスは何なのかと。


「言ったろ。ありゃ売り物じゃあねぇ」


「レプリカってこと?」


「当たらずとも遠からずってとこだな」


 何が可笑しいのか、鉄船は頬を緩ます。


「ありゃあ、手にするに相応しいかどうか、見定めるためのもんだ。といっても、俺が単に本家同様の結界を這っただけで、中にあるのは見た目だけの張りぼてだ。レプリカってほどのものじゃねぇよ」


 短い会話を終え、ガヴァンの店内へと出る。

 後ろを振り返れば、オブリビオンへと続く道は、ただの店の裏通りとなって消えていた。


「ほら、荷物」


「ああ……」


 やっと痛みが引き、軽く動かせる程度に回復したことに気づく。


 黒いハイネックのフード付きロングジャケットを着直し、ファスナーを占めると、渡されたバッグを背負う。


 時計を見れば、時刻は4時半を過ぎ、あと少しで日の出を迎えてしまいそうだった。


「そんじゃ」


「さっさと行け」


 律義に別れの挨拶を告げようとするも、厄介払いをされるように追い払われる。


 けれどそれが、鉄船の優しさなのだと。

 きっと鉄船は自分が何をしようとしているのか、悟っている。

 だからこれだけは伝えておきたいと、別れ際に頭を下げさせていた。


「ありがとうございました」


「……おう」


 ぶっきらぼうな返事を耳に店を後にしようとする。

 そうやって、振り返ろうとした時だった。


「羽亮……?」


 不意に鳴る鈴の音と開いた戸。

 そこには聞こえるはずのない少女の声と、早朝から静かに集まった4人の兵隊がいた。


華聯かれん……」


 心配そうに戸惑いの目を向けられている現状に息が詰まる。

 見つからぬために準備をしたというのに。

 胸の内をどうしてという言葉が埋め尽くしていく。


「嘘……だよね?」


 その瞳には、同様の迷い戸惑いが宿っている。


 裏切られそうになるとき、誰もが見せる。

 そんな疑いたくはない、現実を映したものだった。


「羽亮は、フェザーなんかじゃ……ないよね?」


 受け入れたくはないものを前に華聯の笑顔は、悲しみの色に染まっていた。


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