第一章3  『白と黒②』



 ――数分前。



 突如として現れたフェザーの存在により、学園の廊下は騒然と悲鳴で立ち込め、生徒たちは慌ただしくも避難を開始する。


 ただ、そんな中で一人、その人波を遡るように掻い潜り、自分は走り出していた。


「まさか……っ」


 息を切らしながら、蘇るは皆との先ほどの会話。

 フェザーにより緊急警報が発令され、華聯や如月、月島たちとはすぐに別れた。


 というのも、身体が自然と走り出していた。

 呼び止める彼らの声を無視して、ただひたすらに走り出していた。


 どこを目指すわけでもなく、ただ外へと、皆とは違う場所へと。



 何かに導かれるように、惹かれるように――。



 もしかしたら、その目で確かめたかったのかもしれない。


 今朝出逢ったフェザーの存在を。

 自分が憎んできた存在を。

 幼い頃に憧れを抱いた、翼をもつ者の姿を。


「いや……やっぱり、か……っ」


 風を切り、ふと思う。


 フェザーが現れることは、最初からわかっていた。

 今朝出逢ってしまった時点で、わかっていた。


 だから、驚くことのほどでもなかった。



 ――でも、



 足が止まる。


 誰もいない静かな廊下。避難し終わった静かな空間。誰もいない場所。


 あるのは左右に別れた曲がり角だけ。

 左に行けば体育館。右へと進めば大空を見渡せる外へと出られる。


 右を見て、左を見て、どちらへと進もうか迷う。

 当初は右へと進む予定だった。


 けれど心が叫んでいる。

 左に進め、と。左に進みたい、と。


 怖気づいたわけじゃない。

 フェザーに会いたい。その気持ちは変わらない。

 なのに不思議と、足が自然と、体育館側へと進んでいる。


 暗闇の広がる廊下。

 誰もいないせいか、その薄暗さが不穏に思える。不安を煽る。



「―――」



 そっとドアノブへと手を置く。

 ひんやりとした感触が、朝と同じ感覚へと陥らせる。


 ゆっくりと開放し、その広い空間を見渡す。

 これまで以上に陰った空間。窓から差し込む日射しだけが唯一の光。

 一歩、また一歩と進んでいき、辺りを見回して、2階の開いた窓へと目をやる。


 そこには靡くカーテンがあり、ひらひらと舞っていることに注目する。

 徐々に強く音を立てるそれは、風が強く吹いていることを指し示している。



 ――そして、



「……っ!」


 分厚く頑丈なはずの屋根が、勢いよく崩落する。

 岩盤が落ちてくるように、目の前に瓦礫の山が広がる。

 土煙が舞い、貫通された穴から光が射し込む。



「―――」



 心臓が高鳴る。


 目の前に広がる光景。

 射し込んだ光と土煙の舞う中、現れる一体の影。

 スポットライトを浴びるように佇むその存在。



 それは正しく――、



「よう……返してもらうぜ」


 翼を持つ者。人類の憧れ。憎き敵。

 その存在を目にした瞬間、驚愕する。



 ――何故なら、



「お……前、が……っ」


 その存在――フェザーに、心臓を貫かれていたのだから。


「かは……っ」


 貫かれた手が引き抜かれる。

 大量の血を流し、視界が歪みながら身体がバタリとその場に倒れ込む。

 出逢った瞬間に訪れた突然の死。



 ――また、か……。



 何も見えない。聞こえない。



 そうやって、本日2度目の死を噛み締めながら、意識はどこか遠くへと旅立っていった――。


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