第一章2  『目に見えた予感②』

 先生へと呼び出しを食らい、職員室へと向かうと、案の定の尋問だった。


「それで?君は今朝、一体どこで何をしていたのかな?」


 その問いに対し、やはり答えるかどうか迷ってしまう。


 はっきりと口にしてしまえば楽にはなれる。

 だがそれは、この世界の命運にも関わる事件でもある。


 だから簡単には、口を開くことができない。


「私にも、言えないようなことですか?」


 卑怯な言葉だ。

 支援者であり、ここでの生活を与えてくれた恩人。

 それを利用してくるなんて……。


「すみません……今のは少々意地悪でしたね」


「……いえ、悪いのは先生じゃないですから」


 悲し気に肩を落としてしまう先生。

 そう、悪いのは先生じゃない。



 ――だから、



 先生にだけは、本当のことを口にしたいと思う。


「……先生」


「何ですか?」


 目を逸らし、少しばかり口を噤む。


 言いにくいことではある。

 けれど言わなければ、始まらないし、終わりもない。


 そのため、意を決して口を開く。


「……フェザーに、遭遇しました」


「……っ」


 驚き気味の表情。

 拳を強く握り、罪悪感を押し殺す。



 自分は悪くないというのに――。



 ここに一つだけ、嘘があるから。

 それを吐いてしまえば、もうここにはいられないから。

 そういう後ろめたさが、心の中を蝕んでいく。


「そうですか……」


 落ち込み、思い深そうに考え込んでいる先生。

 ふと、その顔が上がり、苦笑を浮かべる。


「制服が使い物にならなくなるわけです……」


「すみません……」


「いえ、生きてくれていたのだからよかったです。ほんと……」


「……」


「替えの制服は私が何とかしましょう。君はもう戻りなさい」


「わかりました」


 優しい言葉。

 その言葉に内心、安堵を浮かべて職員室を後にする。


「まったく、大変なことになりましたねぇ……」



 背後にいる先生の声を、知る由もなく――。


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