第二章 山賊討伐編 ―夜明けの道―

第二章1  『旅の始まり①』

 あれから3日。


 『梶鉄船かじてっせん』という男の指示で南へと向かい。

 荷物は必要最低限の急拵えだったばかりに水や食料はとうに尽き。

 『魅剣羽亮』は果てのない荒野を歩き続けていた。


「暑い……」


 翼があるからと甘く見ていた。

 飛ぶのにも限界があるというのに。


 空腹には慣れていても、黒い髪と黒いハイネックのロングジャケットから伝わる熱の方が耐え難い。

 フード付きの防水加工が施された、お気に入りの一張羅だからと安易に着てきたのは間違いだったのかもしれない。


 世界は広く、自分は浅はか。

 もしかしたら『魅剣羽亮』はここで野垂れ死ぬかもしれないという思考が拭い切れない。



「―――」



 視界がぼやけ、意識が朦朧とする。

 暑さで思考も定まらない。

 歩く気力も失われていく。


「……っ」


 段差に躓き、転ぶ。

 起き上がろうにも、空腹で力が出ない。


 瞳に映る、ギラついた地平線。

 次第に頬から伝わってくる暑さが、心地よく思えてくる。


 いつしかゆっくり、瞼を下ろして。

 何もかもが、どうでもよく感じて。


 死に行くように眠りへと誘われていた。


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