第三章 第八話 荒らされた館

「屋敷、出されちまったな」


 俺たちは鉄格子の門の前に立っていた。


「そうだな」


「これが本当の門前払いってやつかな?」


「面白くない冗談ね」


「その言い方キツくないかい?」


 神代は「事実でしょ」と軽く言い、後ろを振り向く。


「水島くん、早くトゥクトゥク出してくれる?」


「へいへい、お嬢様出しますよー」


 亮夜はそう言い、瓢箪を投げ「オン・マニ・パドメー・フン」と呪文を唱える。


 瓢箪がトゥクトゥクへと姿を変え、地面に着地する。


 亮夜は面倒臭そうに頭をかき「行くぞ」とトゥクトゥクに乗った。


「行くってどこに?」


「風見鳩の館」


 俺は「あーあ」と頷く。


「何が『あーあ』なの?」


「いやぁ、神代さんの拠点なんだって……思って……」


 神代は俺の顔を見て、耳を赤くしてそっぽを向く。


「関係ないでしょ」


 そう言いトゥクトゥクへと向かう。


 なんなんだ、あいつ?


 そう思いながら、俺たちはトゥクトゥクに乗り、風見鳩の館へ向かう。


 そういえば、屋敷に行く前の風見鳩の館は植物でめちゃくちゃになっていたが、今はどうなのだろうか。


 レベッカの屋敷は全く無傷の状態になっていたなぁ。


 道中そう思っていると館が見えてくる。


 横に突き出ていた太い枝はなく、建物は無傷の状態になっていた。


「本当に戻ってるじゃねぇか」


「僕も最初見た時、驚いたよ」


 全員トゥクトゥクから下車する。


 俺は元通りの館を見上げる。


 やっと戻ってこれた。


 アンの家族を元通りにできた。


 本当によかった。


 俺は心からやっと終わったんだと心から安堵する。


 神代が先に館の扉へ向かった。


「早く入りましょ」


 そう言い彼女は扉の前に立つ。


「っ!?」


 ドアノブを持った瞬間、彼女の顔は険しくなり、片手には矛が握られていた。


「みんな……警戒して」


「本当に!?」


「マジか」


 警戒? 肌はピリピリしていないのだが……。


 俺は右手に現れたつるぎを握り、彼女の近くで構える。


 神代は「行くわ」と言い、扉を勢いよく蹴る。


 扉は開き、俺たちは突入した。


 館に入ってまず目にしたのは、家具がめちゃくちゃに荒らされている部屋であった。


「なんだ警戒するほどではないな」


 俺がそう言うと神代はあたりを見渡し「おかしい」と呟いた。


「何がおかしいんだ? 出る前もこんな感じで荒れてたじゃねぇか」


 亮夜は周りを見渡しながら軽く言った。


「あれ? ない——ないないない……」


 真吾を見ると慌てて何かを探し始めた。


「水島くんはわかったのね」


 神代がそう言った瞬間「いや、分かって当然か」と呟く。


「真吾、何がないんだ?」


「カバンが……カバンがない!!」


「カバン? あぁ、トゥクトゥクにあったカバンか」


「そう……何でないんだよ! 出る前はあったのに……」


「盗まれた……しか考えられない」


「誰が? 何のために?」


「そんなの分かるわけないでしょ。私に聞かないでよ」


 真吾は膝から崩れ落ち「誰が……こんなことを……」と呟くのだった。

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