第三章 第七話 疑問

 話を終え、ティーセットがふわふわと宙に浮きながら、俺たちの目の前で止まる。


 ティーポットが傾き、カップに紅茶が注がれる。


「エルファバ様、毎度言っているではないですか、言っていただければ、私がお注ぎ致しますって」


「こっちの方が早いからいいの」


 浮いているカップを手に取り、一口飲むエルファバ。


「聞きたいことはそれだけ?」


「えぇ、聞きたかったことは——」


 ここで話を終えるのか。


 それでいいのだろうか。


 俺はそう思った時、レベッカの「ごめんなさい」と言ったであろう声が頭の中に聞こえた。


「待って!」


 俺は声を出した。


 全員の視線が俺に向けられる。


 全員何を言うんだ? という顔で俺を見ている。


「エルファバさん……あなたが襲われた女性は誰?」


 そう言った瞬間、全身がピリピリし始めた。


 周囲を見るとカルロスが険しい顔で俺を見下している。


 凄い殺気だ。


 今までの俺ならばすぐ逃げていただろう。


 しかし、今は対処できる。


 来るなら来い!


「小僧……その話は終わっただろ……」


「カルロス、あの話のこと?」


 カルロスはエルファバに振り向き「左様でございます」と答える


「なるほど。坊や——」


「大神 宏です」


「宏、その話は言えない」


「なんでですか!?」


「アナタ達のためよ」


 エルファバは足を組み直し、ティーカップの中見を見つめ話し始めた。


「レベッカってね。すごく家族思いで仲間思いなの。肉親でもないワタシやカルロス、ノコにもすごく優しい。その子がアナタ達に言いたくないって言ったの。お客様ていう立場かもしれないけど。本心はアナタ達に関わって欲しくないっていう願いなのかもね」


 彼女はカップを宙に浮かせ、俺を見る。


「だから……言わない。言ったら親友失格だわ」


 その時のエルファバの笑顔に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「わかり……ました。すみません」


「いいのよ。気になるのはわかるもの。だけど好奇心で突っ走る愚か者にはならないでね?」


「は……はい」と答えた時、真吾が「今——」と呟いた。


 エルファバは真吾を見て「なに?」と反応する。


「いや——何でもないよ……何でも」と言い、軽く首を横に振る。


 変な真吾だなぁ。


「皆様、エルファバ様に聞きたいことがまだお有りでしょうか?」


 低いトーンでカルロスが俺たちに言う。


 振りむくと静かな目で俺たちを見つめている。


 ピリピリが収まらない。


 こ……怖い。


 野獣に睨まれているようだ。


 真吾が慌てて「ない! もう聞くことはないよ!」と答えてくれた。


 その答えを聞き、笑顔を見せるがやっぱりピリピリしている。


「左様でございますか、エルファバ様は何か言いたいことは——」


「ないわよ。ノコの修理もあるし、みんなも良いかしら?」


 亮夜が「そうだな。もう用はねぇだろ」と言い立ち上がる。


 確かにもう何も聞くことはない……いや、できない。


「畏まりました。では玄関までお送り致します」


 全員立ち上がり、亮夜に「宏、行くぞ」と言われ、俺たちは屋敷を出るのだった。

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