第二章 第四十九話 鉄の処女(アイアン・メイデン)

「お姉様もうやめて!」


 後ろからアンの声が聞こえる。


「はぁ、またあなたですか? 今はこの人間を消そうとしてるの。あなたは後で消すので喋らないでくださる?」


 アン何やってるんだ!? 今はダメだ!


「アンやめろ! 今、彼女は俺を見て——」


「いやだ!!」


「えっ?」


 今、なんて言った?


 振り向きたいが、今は何もできない。


「あなた、今なんとおっしゃいました?」


「いやって言ったの。私はずっと守られるのが当たり前だと思ってた。お姉様がその人形を可愛がるように、守られることが当たり前だと思ってた。でも……宏や零、亮夜に岩城と会って、それが当たり前じゃないってわかった」


 彼女の声が徐々に強くなっていくのがわかる。


「もう……守られるだけの私はいや……もういやなの。お姉様、それ以上宏を傷つけないで。次傷つけたら、私許さない!」


 アンがそう言った途端、レベッカはニヤリと笑う。


「アン! それ以上は……」


「黙ってくださる?」


 蔓の棘が目と鼻の先を横切る。


「……」


「なら、アーチを潜なさい。そしたら傷つけないであげる」


 嘘だ。これは罠だ。


 信じるなアン。


 そう心から願ったがアンの返事は「わかった」という言葉だった。


 やめてくれ。彼女をこの戦闘に巻き込みたくなかった。


 アンの足音が聞こえる。


「うっ」とアンの声が聞こえる。


 俺は首をねじるように振り向く。


 目にしたのはとげに刺さり、傷つきながらも俺の方に向かってくる少女の姿だった。




 やめてくれ……やめてくれ……。




 俺の心の声は誰にも聞こえない。


 でも俺には聞こえる。


 自分は無力なのだと。


「いいわぁ、夢力オニロが入ってくる。血がないのが残念だけど」


 レベッカが残念そうに言っているが、そんなことはどうでもいい。


 アンがミニブギーマンは大事に持ちながら、こっちに向かってきているんだ。


 俺も何かアクションを——。


 そう思ったが、視線をレベッカに戻すと、彼女は俺を見ている。


 何もできない。


 俺はなんて無力なんだ。


 アンを助けることができないのか?


 背後から服を引っ張る感覚がある。


「はぁ……はぁ……はぁ……やっと……ついた……」


 息えの彼女の声が聞こえる。


 弱々しい声だが、何か意思を感じる。


 レベッカはアンを見て笑いながらこう言った。


「ふふふっ素晴らしいわね。ちゃんと来れたじゃない。でもあなたバカね。消えるためにここまでくるって……」




 あーはははははは——




 笑うレベッカにアンは静かな声で物申す。


「ねぇ、お姉様。そういえば私たち姉妹しまい喧嘩げんかってしたことなかったね」


 アンはそう言い俺の横に立つ。


「はぁぁぁ、だから私はあなたの姉じゃないって——」


「もう守られるだけの私じゃない。そんな人形ただのゴミ! そんなの私じゃない! お姉様の妹はここにいるの!!」


 レベッカの表情が変わる。


 死んだ魚のような目で俺たちを見る。


「そう……それが最後の言葉ってわけね……」


 蔓が上へ上へと伸び始める。


 その蔓の中央に薔薇の花が咲いた。


 薔薇の花の中央に光が集まり始め、そして赤い光線がこちらに向かってくる。




 あっ、積んだ。




 俺はそう思った。


 しかし、アンは諦めていなかった。


 彼女は大声でこう言った。


「私は守る。私は宏を守りたい! 全ての攻撃からみんなを守る! 鉄の処女アイアン・メイデン!!」


 俺たちは赤い光線に包まれた。

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