第二章 第四十四話 忠義の獣 カルロス・スチュアート

 扉を開けると突き当りがある、また赤絨毯の廊下だった。


「下の階と一緒ってわけか」


「そうだね」


「次はカルロスだと思う」


「ほう、どんなやつだ?」


「こんなやつですが?」


 突き当りからハスキーな声が聞こえてくる。


 現れたのは黒い燕尾服えんびふくを着た銀髪オールバックの鋭い目つきをした初老しょろうの男だった。


「カルロス……」


「これはこれは、偽物の妹様ではございませんか。わざわざ私に処刑されにきたのですか? なんて言いたいところですが——この様子ではノコはやられたみたいですね」


「あぁ、俺たちの仲間がやったよ」


「そうですか。任務失敗というわけか。全く彼女もまだまだですね」


 彼は「はぁ」とため息を吐く。


「おい、それが仲間に対する言い方か?」


「仲間といえど、失敗は失敗だ。許されるものではなかろう。失敗は一生ついてくるものだからな」


 アンが「お姉様は上にいるの?」とカルロスに質問する。


「えぇ、この先の階段を上がった屋根裏部屋にいらっしゃいますよ。もちろん鍵は私が持っていますがね」


 カルロスはそう言い、上着の右ポケットをポンポンと叩く。


 そして、鋭い目つきで俺たちを睨む。


「それで三人がかりで私と戦うのでしょうか?」


 三人……アンも入ってるということだよな。


 アンは能力が使えない。


 守りながら戦うってことか?


 そう思っていたら、亮夜が俺の肩にポンと叩き、一歩前に出る


「俺がやる。宏は彼女を守っててくれ」


「ほう、左様でございますか。あなた一人で私を倒すと……」


「そうだぜ。正直爺さん相手っていうのは気がひけるがな」


「ははは……黙れよ、青二才が。所詮は口だけだろうが……」


「おいおい、客に対してその言い方どうなんだ?」


 そう亮夜が言うと、カルロスは「客?」と苛立った声を発した。


「我が領地を荒らし、主人あるじであるオロチ様並ならびレベッカお嬢様の静寂せいじゃくさまげる不届ふとどものが客?」




 ふざけるなぁぁぁ!!




 カルロスは咆哮ほうこうした。


 顔を真っ赤に荒い息をたて、殺気をただよわせている。


「あんたら気をつけろ。くるぞ」


「お前たちは侵入者だ! 忌々いまいましい侵入者しんにゅうしゃだ! 侵入者は絶対に生きて返えさん!!」




 ワオオオオオオン




 カルロスは上を向き、狼のような遠吠えをした。


 彼の顔が毛深くなっていく。


 彼の体型が大きくなっていく。


「我が忠義ちゅうぎもと。カルロス・スチュアートが主人らの静寂のため。お前たちを排除する! 忠義ロヤリテッドベルセルク!!」


 カルロスが叫ぶと、彼は全身発電し始めた。そして、俺の真横に彼が立っていた。


 その瞬間、俺とアンはそのまま両開き扉に飛ばされた。


 扉にぶつかる。


 背中いてぇ。


「アン、大丈夫か?」


「大丈夫」と返事が返ってきた。


 よかった。


 亮夜は?


 そう思い、亮夜を探すと廊下の方の壁に埋まっていた。


「亮夜!」


「ふっ、口ほどにもない。次はお前たちだ!」


 俺はアンを庇うように抱きしめる。


「消えろ!」


 全身発電している彼の拳が俺たちのほうに向かってくる。


 その拳が大きく見える。


 もう終わりか?




「俺を無視すんじゃねぇ!!」




 俺の視界にカルロスをドロップキックしている亮夜の姿があった。

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