第二章 第四十三話 俯く少女

 なんでそんな顔をするんだ?


 俺たちは君を助けるために、ここへ来たのに……。


 亮夜はアンに近づき「行くぞ」と彼女の手を引っ張る。


「いや!」


 彼女は亮夜の手を払った。


 亮夜は払われた手を見る。


「あぁ?」


 頭の大きな仮面がアンを睨む。


 睨んだ先は背中を丸め、肩を震わせる。


 手に持っているミニブギーマンが濡れている。


「私は……偽物だって……」


「「……」」


 例えば、親が急にあなたは私の子供じゃないからと言われ、赤の他人のような扱いをされたら、どう思うだろうか。


 悲しさ、不安、絶望が一気にくるのではないだろうか。


 頼れる人がいなくなる。


 それだけでも辛いのに。


「ここを出ても……私の居場所はない……私はもう一人なんだ……」


 今の彼女はそういう状態なのだ。


 同情はできない。でも——。


「そんなこと」と亮夜が言った瞬間、俺も「そんなことない!!」と発言していた。


 口が勝手に動いた。


 仮面を被る彼が振り返る。仮面の目の奥を見ると、目を見開いている。


 そして、彼は俺をじーっと見て頷いた。


 俺も頷き返し、彼女に近寄り、そのまま片膝を床に付ける。


 震える手を両手で優しく握り、俺はこう言った。


「アン、君は一人じゃない」


「えっ?」


「君にはベルがいる。神代がいる。亮夜や岩城……俺だっている。俺たちがいるじゃないか。確かに君の家族の代わりにはなれないけど……でも……」


「まぁ、要するに!」と亮夜は俺の両肩に手を置き、引き続き言い始めた。


「あんたは俺らがついてる。だから心配すんな」


「そ、そうだな」


 あれ? いいとこ取られた?


「それとあんたは今のままでいいのか?」


「今の……まま?」


「そうだ、あんたは偽物のままでいいのか? あんたはあんただろ?」


 アンは鼻をすすり、無理やり深呼吸し始めた。


 そして、歯を食いしばりながら俺たちを見る。




「やだっ!!」




 その一言が部屋を響かせ、彼女の目は決意に満ちている。


「そうだな。嫌だよな。だからその原因を見つけて、こんなこと終わらせよう」


 彼女は袖(そで)で涙を拭き、俺を見て、強く頷いた。


「よし、それじゃ行くか!」


 そう言い亮夜は部屋を出ようとする。


 俺も彼について行こうと立とうとしたら、アンが俺の袖を掴んだ。


「どうした?」と振り向きながら、彼女に聞いた。


「初めて……私の名前を呼んでくれたね」


 その時の彼女はすごくいい笑顔だった。


「何してる?」


 亮夜が再び俺たちを呼ぶ。


「ごめん。行こう」


「うん」


 こうして俺たちは部屋を出て、廊下を歩いている。


 亮夜が一旦階段を降りて、神代と合流しようと提案をしてきた。


 それに俺とアンは賛成し、階段まで歩いたのだが……。




「嘘……だろ?」


 亮夜がそう言うのも仕方がない。なぜなら階段があった場所に壁ができていたからだ。


「いつの間にこんなのができたんだ?」


「エルファバだと思う……何か条件あって、それが発動したんだと思う。……お姉様たちは入った人は絶対逃がさないって言ってた」


「アン、なにサラッと重要なこと言ってるんだ?」


「まぁ、されたものはしゃーねぇかぁ」


 そう言い亮夜は歩いてきた廊下を見ると小声で「マジか」と呟く。


 振り返ると廊下も壁になっていた。


「戻ることはできねぇみたいだ。二人とも行くぞ」


 そう言い亮夜は扉の鍵を開けた。

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