第二章 第三十五話 ドラゴンクロック

「あっそ。をワタシに向けるのね。じゃ消えなさい!!」


 エルファバが叫ぶと、左右にいるアンティークなドラゴンをした時計の部分が、発射口に変形した。


 発射口に光が集まり始める。



 キュュュュュュ!



 神代は槍を地面に刺し、そこから蔓を生やす。


 勢いよく蔓はエルファバに向かった。


 しかし、空中で華麗に避けられ、神代を回り込むように移動する。


「ヒャハハァ! そんなのでワタシを捕まえれると思ったの? 前と一緒じゃないの! くらいなさい!!」


 光線が神代に向かって放たれた。



 ビーーーー!!



 彼女は槍を握り、光線に向かって蔓を出す。


 蔓は光線にあたり、そのまま爆発する。



 パァァァン!!



「う゛っ!」


 しかし、爆風によって彼女は階段の方に飛ばされる。


「神代さん!」


 俺は彼女に向かおうとした瞬間、また肩を掴まれた。


「離してくれ、亮夜!」


「男なら耐えろ」


「なんで?」


「彼女の意思を裏切る気か?」


「……くそっ」


 俺は今、何もできないのか。


「あら? さっきの威勢はどうしたのかしら? まさか実力もないのに、ホラ吹いたの? ヒーヒャハハハ……」


 エルファバが神代を馬鹿にする。


 助けたい。しかし、これは彼女が望んだこと。


 ヒーローでもない俺が、ここで出ることはできない。


「ふっ、私を見てていいの?」


「はぁ?」


「下がガラ空き」


 そう神代が言った瞬間、亮夜が「ひろぉぉぉぉぉぉ!!」と叫んでいた。


 それもそうだろう。


 俺は今、下から上へと急に動き、ちょっとした無重力を体感している。


 自分でも何が何だか分からない状況だ。


 視界が一瞬、緑色になる。


 なんだ? 何が起こっているんだ?


 そう思った束の間、無重力状態が解放され、俺の視界は緑いっぱい、枝いっぱいの木の中だった。


「ひろぉぉぉ、大丈夫かぁぁぁ?」


 下から亮夜の声がする。


 見下げると少し小さく見える亮夜が手を振っている。


 えっ? たっか!?


 俺はビビりながらも「大丈夫!」と亮夜に答える。


 冷静に現状を把握しよう。


 神代が言った瞬間、俺は枝の上に立っている。


 目の前は木に登らないと見れない風景。木の枝と葉っぱだらけ。


 そこから考えると、彼女がこの木を生やし、俺は巻き込まれたんだな。


 マジかぁぁぁ。なんで俺なの?


 まぁいい、ここは戦場になるから、早く下りないと……。


 うっ、ピリピリする。どこからだ?



 ビー!


 ビー!



 光線が打つ音が聞こえる。


 木の中心からか?



 パキッ



 パキッ? 何の音だ。


 そう思っていると視界が徐々に斜めになっていくのがわかる。


 この枝折れる!!


 俺は急いで奥の方に走り込み、そのまま頭から飛び込んだ。


 枝はそのまま折れ、下に落ちていく。


 間一髪で落ちずに済んだが、下の方から亮夜が「危ねぇ!!」と叫んだ。


 俺は折れたところから顔を出し、亮夜を見る。


 避けれたようだ。よかった。


「亮夜! 大丈夫か?」


「あっぶねぇ……おう! 大丈夫だ! そっちは?」


「こっちは大丈夫!」


 俺は奥の方を少し振り返り、また亮夜を見る。


「俺は奥の方に行くから待っててくれ!!」


「そこに何かあるのか?」


「神代さんが戦ってると思う!」


「そうか、わかった! 気をつけて行ってこい!!」


 俺は頷き、きびすを返す。


 目の前は枝と葉っぱだらけ。


「行こう」


 そう自分を鼓舞し、枝を持ち上げたり、潜りながら前へ進む。


 この先で神代さんが戦っているはずだ。


 最悪、戦闘になるかも。


 そう思っていたら、右手に何か握っている。


 剣(つるぎ)だ。


 これ使うか。


 俺はその剣を使い、邪魔な枝を切りながら奥へ進んで行く。


 彼女は大丈夫か?


 戦えているのか?


 不安と心配が俺を襲う。



 ビーー!



 音が近い。


 目の前の枝を切ると視界が晴れた。


 そこにはエルファバと戦う彼女の姿があった。

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