第二章 第三十四話 屋敷侵入

 目の前には立派な扉。


 北能町にある館のように高級感のある扉だ。


「鍵、入れるよ」


 岩城はそう言い、鍵穴に鍵を入れ、回す。



 カチャッ



 鍵が開いた。


 ドアノブを回し、扉を開ける。


 そこは玄関ホール。床は大理石でチェス盤のような白と黒の市松模様であった。


 その奥にはまた扉がある。


「ここからが本番ってわけだね……入るよ」


 岩城がそう言い全員屋敷に入る。


 玄関広いなー。


 四人入っても余裕のある広さだ。


「こんな所で立ち止まってんじゃねぇ。行くぞ」


 亮夜がそう言い、奥の扉を開ける。


 開くとそこは体育館ぐらい広く赤絨毯あかじゅうたんかれた広間に、奥には劇場を思わせるような、二階に上がる階段が視界に入ってきた。


 俺たちはそのまま広間に入る。



 キィィィ、バン!!



 後ろを振り返ると、扉が勝手に閉まっていた。


「逃がさないってわけね」



 ヒッヒッヒッヒャハハハ〜



 悪魔のような高笑いが広間を響かせる。


 緑色の肌をした黒装束を着た女性がほうきを持ちながら、二階から下りてくる。


 しかし、彼女一人だけではない。


 左右一体づつ何かが宙に浮いている。


 見た目は歯車やネジで作られたアンティークな感じで、胴体が丸いドラゴンなのだが、その胴体は時計になっている。


 なんていうかすごく独特な見た目だ。


 彼女は笑いながら折り返しの踊り場の中央に立つ。


「ハハハァ、ベイカーがやられたのね。まぁ、所詮は猿だし、期待はしてなかったけど」


 そう言い彼女は箒に座り、宙に浮かぶ。


「さぁ、かかってらっしゃい。ワタシこと、エルファバ・マグワイアがオロチ様に代わってあなた達を消してあげますわ」


 やるのか?


 右手に剣を持っている。


 いつでも行ける。


 そう思っていたら神代が「みんな」と俺たちを呼ぶ。


 振り返ると彼女は真剣な眼で俺たちを見る。


「私がやるから……手を出さないで、お願い」


 何を言っているんだ?


 みんなで戦えば勝てるじゃないか。


「神代さん、それは……」


 誰かが俺の肩を掴む。


 振り返ると亮夜が大きな頭で首を横に振っていた。


「わかった。あんたがそうしたいんだな?」


 神代を見ると頷いている。


「了解だよ! じゃ、僕たちはビームに当たらないように逃げておくねぇ」


 岩城はそう言い神代から離れる。


「行ってくる」


「あぁ、行ってこい」


 彼女は一人、エルファバに向かって歩いていく。


「亮夜、なんで俺を止めたんだ? 神代さんが……」


「はぁぁぁ。宏、わかってねぇな。こういう時は信頼して行かせるんだよ。神代自身、因縁があんじゃねぇかなー。……うん。それじゃお互いビームに気をつけようぜ」


 俺は下を向き「……あぁ」と答えるしかなかった。


 本当に彼女は大丈夫だろうか。


 そう心配するが、今は信じるしかない。


 彼女ならできる。


 そう思うしかなかった。


 エルファバは見下げながら神代を見る。


「あらあらあら、話し合いが終わったかと思えば……アナタだけ? お仲間さんは相当根性なしなのね。そりゃそっか、だってアナタ、あの三人信じてないですもんねぇ」



 ヒッヒッヒッヒャハハハ〜



 サメのようなギザギザの歯を見せながら大きく笑う。


「えぇ、そうね」


 神代は立ち止まった。


「確かに今でも信じるかどうかは悩んでるところ。正直言って頼りない……でも……」


 俺は彼女の言っていることを聞きながら、一瞬瞬きした。


 彼女の手には槍が握られている。


 槍の先をエルファバに向け、こう言い放つ。


「彼らは私の仲間よ! 仲間を侮辱しないで!!」


 彼女の声が広間を響かせる。


 その姿にエルファバは面白くないと言いたそうな顔で、神代を見下げるのだった。

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