第二章 第三十話 ジェットコースターは好きかしら?

 ウキィー……ウキィー……ウキィー……


 エンジン音と共に、遠くから猿のような声が聞こえてくる。


「ほーら、迎えがきやがった」


「うわぉ、大歓迎だね。学校じゃ体験できないよ」


 どれぐらいいるんだ?


 少し首を出し空を見る。


 この世界の空はシャガールの絵のような深い青色なのだが、真っ黒であった。



 ウキィーウキィーウキィー

 ウキキィー

 ウキィ

  ウキィー

  ウキィーウキィー



 圧倒的な数。このまま襲われれば須輪山公園同様、負けてしまう。


 これ倒せれるのか?


「岩城くん、どれぐらいいるの?」


 神代が岩城にたずねる。


「たくさんいるよぉ。いすぎて逆に気持ち悪いぐらい」


「そう、倒せそう?」


「うん無理だよ」


 岩城があっさり答える。


 無理? 今、無理って言ったか? じゃ、どうやって切り抜けるんだ?



 ガンッ!



 金属がぶつかる音がした。


 ん? お腹に何か違和感が……。


 そう思いお腹を見ると、神代の槍がトゥクトゥクの端を刺している。まるでジェットコースターの安全バーのようだ。


「ねぇ、神代さん? 一言言ってくれないかな。もうすこしでお腹が貫通するところだったんだけど」


 岩城を見ると、これでもかというほどお腹をへこませている。


「太ってるあなたが悪いんでしょ?」


 そう言うと蔓が亮夜とベルの腰をぐるぐるに巻き、固定させる。


「神代、何してやがる?」


「水島くん、大丈夫。私が知ってる能力なら、このトゥクトゥク壊れないから」


 そう言うと彼女は左手を座席に置いた。


「ふっ、この状況あの時と似ている。まさかここでするとは思わなかったけど」



 ガチャンガチャンガチャンガチャン



 なんの音だ? 背後から聞こえる。


 振り返ると、トゥクトゥクの後部にロケットの噴射口見たいなのがついている。いや、変形した?


「みんな、絶叫系って好き? 私は好きよ。特にジェットコースターが好き」


「じぇっと……こーすた? ってなんですか?」


「神代、お前何する気だ?」


「水島くんはそのままアクセル全開でお願いね」


「じぇっと……こーすた? ってなんなんですか!」


 ベルが大声で聞くが、誰も返さない。


 それもそのはず、ベル以外の全員は嫌な予感しかしていないのだ。


 俺と岩城は槍の持ち手を強く握る。


「行くわ」


 彼女はそう言うと、アスファルトからジャックと豆の木を彷彿とさせるほどの太い蔓が生え、そのまま勢いよく影たちに突っ込んでいく。


 反応できなかったのか、前方にいた何十体の影は霧散し、蔓はそのまま切り開くように伸びる。



 パチッ……パチパチッ



 背後から小さな破裂音が聞こえる。


 これ来るわ。



 ボッ、ボォォォォォォ!!



「ゔっ……!」


 体が後ろに引っ張られる。


「そのまま蔓に乗って!!」


「えっ!? お、おう!」


 トゥクトゥクはそのまま蔓の上を乗り、猛スピードで登っていく。


 影が向かってくる。


 いや、こっちが影に向かっている。


「ぶつかるぶつかるぶつかるよぉぉぉ!!!」


 岩城が叫ぶ。


 トゥクトゥクは影たちを抜ける。


「抜けたぁぁぁ!!」


 亮夜が叫ぶ。


 シャガールの絵のような空が見える。


「空、青いな」


 俺、何言ってるんだろ。いや、現実逃避したいだけか。


「このまま屋敷の入り口まで行くわよ!!」


 トゥクトゥクが急降下する。


 蔓でできた道は曲がりくねっており、神代がいったジェットコースターという意味がわかった。


「「うわぉ! うわぁっ! うわぁぁぁぁぁぁ!!」」


 神代以外の全員は絶叫するしかなかった。


 何回か影にぶつかったような気はしたが、霧散していないから気のせいだろう。


 紆余曲折うよきょくせつした道を猛スピードで走るトゥクトゥク。


 やっと、門が見えてきた。ゴールは目の前だ。


「突っ込むぞ!」


 亮夜がそう言い、トゥクトゥクは門に突っ込む。


 門は破壊され、洋風の庭園が現れた。

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