第二章 第二十八話 不覚醒者

風見鳩かざみばとやかたに着いた時には、影たちが建物を囲うようにいたの。襲い始めたところだった……」


 彼女が言うにはその後、建物の近くにいた影を何体か倒し、そのまま一階の窓からダイナミックに侵入したそうだ。


 それを聞き、亮夜は下の階を指差しこう言った。


「なるほどな。だからあの窓だけ、蔓が何重にもなってたって訳か」


「影を侵入させないためにね。でも館に何体か入ってたから、階段の折返しで戦っているベルと共闘したの。一階の影たちを倒してたんだけど……」


 彼女は眉をしかめながらうつむいた。


 中途半端に話が途切れたので「だけど?」と彼女に返す。


「二階から影が入ったみたいで、戦闘中にアンが影にさらわれた。一瞬、本当に一瞬。後ろを振り向いて、いないって思ったら、影どもがあの子を抱きかかえて飛んでたの。急いで蔓を出して走って、手を伸ばしたのに……届かなかった……」


 岩城は腕を組み頷きながら「だから外から出てきたんだねぇ」と答える。


 ただ疑問に思うことがある。妖魔ならなぜ能力を使わなかったのだろうか。


 俺は「でもあの子は自分の身は守れるんじゃ……」と発言すると、ベルが今にも泣きそうな顔で俺を見る。


 そして、衝撃の一言を俺たちに発した。




「妹様は……覚醒されていないんです!」




「「えっ?」」




 俺と亮夜は空いた口が塞がらない。まさかこんな近くに無能力者がいるなんて思いもしなかった。彼女を知っていたら、もっと対処できたんじゃないだろうか。


 その真実を知って第一声を発したのは亮夜だった。


「嘘だろ?」


 俺も一緒だ。嘘だと信じたい。しかし、神代とベルが知っているということは、これは事実なのだ。


「やっぱり、そうだったんだね。薄々感じてたよ」


「おい岩城、なんであんたも知ってるのに言わねぇんだよ!!」


「確信できなかったからだよ。何でもかんでも大きな声だせば解決するなんて思わないでくれるかい?」


 岩城が亮夜にそう言い返した。


 岩城って反論できるんだ。


 少し亮夜は静かになる。そして「……じゃ、どうすればいいんだ?」と岩城に質問する。


「そうだね。……このまま突撃しようか!」


「「はっ?」」


「だって、ここでウジウジしてもアンちゃんは帰ってこないよ。だったらみんなで行こうよ」


「あんた、ピクニックじゃねぇんだぞ!」


「そうです! 相手は私の当主たち……強いんですよ?」


 強い……か。確かに須輪山すわやま公園の時や今回の件に関しても、勝てていない。むしろ負けている。でも……。


「強いから……諦めるのかい?」


 みんな、俺を見る。


「須輪山公園の時だって、今回だって、みんな一緒に戦っていないじゃないか」


「それ、あんたもじゃねぇか」


「……」


「大神くんが言いたいことはわかるよ。確かに君もそうだった。でもそれを言うってことは君も戦うんだよね?」


 そうだ、戦わなければならないんだ。言ったからには責任を取らなければならない。


「あぁ、戦う」


 俺は真剣な眼差しでみんなを見渡す。


 亮夜は大きな頭の後ろをさすりながら「宏がそう言うんだったらいいけどよ……」と言い、俺に近づく。


「二言はねぇよな?」


 俺は頷く。


「そうか……神代とチンチクリンはどうする?」


「チンチクリンって言わないでください! 私は行きます! 妹様が心配です!」


「私も行く。この子だけ行かせるわけないでしょ?」


 神代はそう言い、立ち上がる。


「よし! じゃみんな行こうか!」


 岩城がそう言った瞬間、ベルが何か言いたそうだ。


「あの! それとー……」


「どうしたんだいベルちゃん? まさか僕とハグしたくなったのかい?」


 ベルは無表情で「いえ、違います」と返す。


「皆さまに謝りたいことがあって……ごめんなさい! 当主様が生きていることを黙っていました!」


「そのことはもういい、来る前に知ってたし」


「えっ? 本当ですか?」


「うん、そうだ」


「えっ?」


「そうだよ! さぁ、僕の胸においで!」


「いやです」


「ゔっ……」


 岩城はそのまま床に倒れた。


 なにしてるんだか。


 そう思いながら、緊張と緩和の時間を過ごした。

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