第二章 第二十七話 影との戦闘後

「岩城! 矢で射抜け!」


「無理だよ! 射抜いたらアンちゃんが落ちちゃうよ!」


「くそっ!!」


 亮夜の声が少しこだました。石畳を蹴るが、何も起こらない。大きな頭が下を向いて、両手を強く握り占める。


 岩城はどうだ?


 彼を見ると弓矢を持ちながら、眉をしかめ去っていく影たちを見ている。そして、歯を食いしばる。


 これでは状況が整理できない。


「二人とも風見鳩の館に行こう」


 そう俺が言うと岩城が振り返り、一瞬目が右に動く。そして、そのまま俺を見てこう言った。


「……そうだね。行こう水島」


 亮夜は下を向いたまま「……あぁ」と答えた。


 そして、俺たちは坂道を登った。


 道中、混戦したあとが生々しく残っていた。焼け焦げた壁に、隆起りゅうきする石畳、銃弾の痕に、伸びきったつる


 神代さんとベルは大丈夫だろうか。


 風見鳩の館の前に着いたが、変わりはてた姿になって、何も言えない状態だった。


 窓ガラスはられ、所々ところどころに大きな穴が開けられている。二階の部屋からは太く大きな蔓が天に向かって伸びていた。


 一体どんな戦いを繰り広げたのだろうか。


「やっと着いたのね」


 風見鳩の館の入り口からではなく、館の外から神代が歩いてきた。服が汚れている。顔を見ると彼女の目が少し赤い。


「なに?」


 俺を見て目が鋭くなる。


「……神代さん、何があったんだい?」


 彼女は下を向き「館の中で言うわ」と言い、館に入っていく。


「行こうか、大神くん、水島」


「あぁ、チンチクリンも気になるからな」


「ベルちゃんって呼びなよ」


「チンチクリンはチンチクリンだ」


 亮夜らしい回答だな、そう思いながら館に入るのだった。


 館の中は荒れていた。家具はめちゃくちゃに破壊され、壁や天井、床などいろんなところが穴だらけだ。


「こりゃ酷いなぁ。蔓が色んな所に生えてやがる」


「そうだねぇ、弾痕だんこんもはっきり残ってるよ」


 亮夜は天井を見上げ、岩城は壁に空いた小さな穴を人差し指で撫でる。


 正直、悲惨な状態だ。


 周りを見渡すと一階に神代の姿がない。二階だろうか。


 俺は中央の階段を見る。


「みんな、二階に行こう」


 二人は俺を見て、各々おのおの返事をしてそのまま階段を登る。


 二階に上がると目の前の部屋でベルが床に座りこんでいる。神代は彼女を立たせようと、両脇を持ち上げていた。


「ッ……妹……様……」


 啜り泣く声が聞こえる。


「ベルちゃ……」


 岩城が彼女のところに向かおうとした瞬間、亮夜が彼の首根っこを掴む。


「何するんだよ!」


「バカ! 逆に言うけどよ。こんな雰囲気の時に何行こうとしてんだ」


「二人とも静かにしないと……」


「あなた達!」


 声の方へ振り返ると、俺たちを睨む神代とスカートを握り、下を向くベルが立っている。


「入ってきてくれる?」


 彼女の目力(めぢから)に圧倒され、俺たちは一斉に「はい」と答え、そのまま部屋に入る。


 俺は背凭せもたれが壊れた椅子に座り、亮夜は壁にもたれ掛かり、岩城は床に座る。


 神代とベルはというと、二人とも神代が生成した蔓に腰を据えていた。


 少し沈黙した後、岩城が隣の部屋を覗き込むように立ち上がりこう言う。


「あ、あの太い蔓はどうしたんだい? まさか金の鶏を取りに行こう思ったのかい?」


 金の鶏? ジャックと豆の木のことだろうか。


 岩城は周りを見渡すが、誰一人笑う者はいなかった。


「あー……ごめん、笑えないよね」


 そう言い再び床に座る。


「で、岩城のくだらねぇ話はいいけどよぉ。実際、何があったんだ?」


 亮夜がくだらないと言った瞬間、小さい声で「ゔっ……くだらない」と胸を抑える岩城。


 それを無視しながら神代は両手を小さく広げ、周りを見せるように「えぇ、この惨状(さんじょう)は流石に隠しきれないもの、言うわ」と言い、ここで何が起こったか言い始めるのであった。

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