第二章 第二十六話 坂道の戦闘

 一本の矢が影の頭を射抜く。


 影は倒れ、黒い霧のように霧散する。


 影たちは一瞬、倒れる影に視線を向け、その瞬間に俺は坂道を全速力で走り、隣の影を斬りつけた。


 影は防ぐ間もなく、斜めに真っ二つに斬れ、そのまま霧散する。


 左側から何かピリピリ感じる。視線を左に向けると、そこは壁だった。


 しかし、ピリピリ感じる。どこだ?


 時間が遅く感じる。いつものゾーン状態だ。


 この状態でか……まさか!?


 俺はゆっくり視線を上に向けると、影が黒い牙を見せつけるかのように口を開け、大の字でゆっくりと落ちてくる。


 これは間に合わない。顔面に着地するじゃないか。



 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ



 両手が顔を守るように咄嗟に出て、そこで気づく。あっ、次の行動ができない。



 ウキィッ!?



 両手の間から影の頭に一本の矢が刺さるのが見える。影は矢の反動で頭が少し揺れ、目の前で黒い霧のように霧散した。


「大神くん! 右!」


 右側からピリピリ感じる。振り向くと影が俺に向かって跳び上がっていた。


 影が六十センチぐらいまで来ている。


 あっ、これも間に合わないわ。


 そう思った瞬間、目の前まで跳んで来ていた影の腰あたりに帯が巻きつく。


「おりゃぁぁぁ!」


 亮夜が片手で帯を引っ張り、そのまま放物線をえがくように影を投げ飛ばす。


「ボーっとしてんじゃねぇ!」


 そう亮夜が声を掛けた瞬間、四体の影が彼を無視し、俺に向かってくる。


「くっそ! 宏!」


「大神くん、後ろ!!」


 岩城の声も聞こる。


 たぶん全方向で影たちが俺に向かって来ているのだろう。亮夜、岩城でも対処できないぐらいの数がここにいるのか。


 考えろ。今、手に持っているつるぎだけでは対処できない。この状況……ならあの姿しかない。


「俺だって戦えるんだぁぁぁ!!」



 俺は願う。自分を守るものが欲しい。



 みんなと戦うんだ。もう二人だけに頼りきってはダメなんだ。


 地面を踏みしめ、向かってくる影たちに刃向かうように、俺は彼らに向かって走り出した。


「俺は戦うんだぁぁぁ!」


 一体の影が俺に跳びかかる。俺はつるぎで斬ろうとせず、右手を突くように伸ばした。影に触れる寸前、握っていたつるぎは消える。右手は籠手こてを身にまとい、影は縦に両断され黒い霧と化した。


 また影が飛びかかってくる。次は左手を握り、そのまま突くように伸ばす。左手にも籠手が身に纏う。影は横に両断され、黒い霧となって霧散(むさん)する。



 はぁぁぁぁぁぁ!



 俺は天に向かって吠えた。戦うんだ戦うんだ戦うんだ!


 体が震える。寒くて震えているんじゃない、怖くて震えているんじゃない。俺は今から戦うんだ!


 全身がすこし重い。


 後方から岩城が「そのよろい姿、カッコいいよ!!」と言ってくる。


 そうか、今鎧を着ているのか。


 後方からピリピリ感じる。影が俺を襲うとしているのか。



 スパーンスパーンスパーン!



 だが無意味だ。


 後方から感じたピリピリがなくなる。


 その状況を亮夜が見ていたのか大声で「はぁっ!? なんだあれ? 三体全部斬れて煙になったぞ!?」と言う。


「あれぇ? 水島初めて見るの?」


「初めてだよ! 心強いぜ! おらぁ!!」


 亮夜が影たちに突っ込んでいく。


 俺も続いて行こう。


 亮夜は右側にいる影たちを吹っ飛ばし、岩城は空にいる影たちを射抜き、俺は左側にいる影たちを斬っていく。


 影たちが減っていっている。中には撤退てったいする影もいた。


 亮夜が「なんだ? お前らビビってんのかぁ?」と余裕そうに言う。


 影たちが撤退し始めた。


 なぜだ?


「へっ、尻尾巻いて逃げていくじゃねぇか。風見鶏の館に向かうぞ」


「あれ? アンちゃんじゃないかい!?」


 岩城が空を指している。見上げると立ち去る影たち、その中に金髪の少女が抱えられながら連れていかれていた。

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