第二章 第二十五話 影の襲撃

「はぁはぁはぁ、あんたいい加減にしろよ!」


 息が上がり、膝をつく亮夜。


「何言ってるんですかぁ? もう持ってるじゃないですかっ!」


 ブギーマンはそう言い、亮夜の腰あたりを指差す。


 亮夜のお腹辺りを見ると、帯が膨らんでいる。彼は帯と服の間に手を入れると、瓢箪が出てきた。


 ブギーマンが「ほらぁぁぁ」と冷やかす。亮夜のまぶたが一瞬ピクッと動いたが「そんな暇はねぇ。宏、岩城行くぞ」と言い関帝廟を出る。


 岩城が「うん、行くよ」と返事し、出口へ向かう。


 俺も彼らを追うように、出口に向かう。ブギーマンとすれ違うその一瞬、彼はこう言った。


「また後で」


 振り向くとそこには誰もいない。本堂があるだけだ。


「おい、宏。早く行くぞ!」


「お、おう!」と大きな声で返事し、そのまま出て、トゥクトゥクに乗車する。


 トゥクトゥクには神代の姿はなかった。先に行ったのだろう。


 亮夜が「出発するぞ」と言い、トゥクトゥクが動き始める。


 俺たちは風見鳩かざみばとやかたへ向かう。


 ベル、アン、早く行って助けるからな。耐えてくれよ。


 亮夜が「生畑いくはた新道しんみちから行く!」と言うと、岩城が「なんでだい? 流星学園の通りを通ればいいじゃないか」と返した。


「影がいる可能性があるじゃねぇか!」


 その後全員、前のめりの状態で何も喋らず、ただ前だけを見る。


 早く着いてくれ、早く着いてくれ、早く着いてくれ。


 そう思うが風見鶏の館にはまだ着かない。


 早く着いてくれ、早く着いてくれ、早く着いてくれ。


 見慣れた風景になってきた。


「ここを曲がれば北能坂だ」


 亮夜がハンドルを左に傾け、坂を登り始めた途端、俺たちは息を飲んだ。


 シャガールのような青い空に、這い寄るアリの大軍が如く、一列に飛んでいる黒い影。あそこが風見鶏の館なのだろうとわかるくらい。上空で円を書きながら飛び回っている。



 パァァァン……パァァァン……パァァァン……。



 小さく響く銃声。ベルが戦っているのだろう。


 トゥクトゥクが北能坂をアクセル全開で登る。しかし、坂道なのでそこまでスピードが上がらない。


「早く行け!」


 亮夜は叫ぶがトゥクトゥクのスピードは上がらない。


 やっと北能坂を登り切る。


「やっと登りきったよ。で、どうするの?」


「そのまま突っ込む」


「亮夜、今なんて? うわっ!?」


 亮夜は何も言わず、トゥクトゥクのアクセルを全開に回し、目の前にある階段を登り出した。


 トゥクトゥクは上下に揺れながらも登る。俺はトゥクトゥクの柱にしがみつき、視界が定まらないでいた。


 階段を登り切るとまた坂道だ。



 ウキィーウキィーウキィー

 ウキキィー

 ウキィ

  ウキィー

  ウキィーウキィー



 上空から影たちの鳴き声が聞こえる。



 パァンパァンパァン……



 それと同時に銃声も聞こえる。


 あともう少しだ。そう思った瞬間、トゥクトゥクが止まった。


「宏、水島。下りるぞ」


「なんでだい?」


「お客さんだ」


 お客さん……なるほど。


 岩城が「そういうことねー」と言い、全員トゥクトゥクから下りる。



 ウキィーウキィーウキィー

 ウキキィー

 ウキィ

  ウキィー

  ウキィーウキィー



 下りると目の前には無数の影たちが道を塞ぐように叫んでいる。


 亮夜は「オン・マニ・パドメー・フン」と唱え、トゥクトゥクを瓢箪に変える。


 岩城を見ると、いつのまにか左手に弓を、右肩に矢筒が掛かっている。彼は一本の矢を矢筒から取り出し、そのまま弦に引っ掛ける。


 右手に何か握りしめている感覚がある。


 やらなくちゃいけないんだ。


 俺、岩城、水島と横一列に並び。


 岩城が「みんな準備はいいかい?」と聞いてくる。


「あぁ、できてる。いつでもこい」


「うん、いつでもいけるよ」


 そう答えると「わかった。いくよ」と言い、弦を引っ張り、前方の影たちに向かって矢は射られた。

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