第二章 第二十三話 信じる心
「私は……あなたたちを信用することができない」
「それは『あの人たち』と関係してるのかい?」
「岩城くん、あの人たちって誰?」
「それは……」
岩城はそのことを言おうとした瞬間、神代が「言わなくていい! 言わなくていいの」と会話を止める。
「私は一回仲間っていうのかな。お世話になった人たちとこの世界を旅をしたことがあるの。辛いこともあったけど、楽しかった」
神代は見上げながらそう言った。俺も見上げたが、あるのはシャガールの絵のような深い青空だ。視線を彼女に戻し「その人たちは?」と質問した。
「光の泡になって消えた。ねぇ、岩城くんもその時いたでしょ?」
「うん、いたよ。本当に楽しい人たちだったよね」
「その人たちと違うから俺たちといたくねぇってことか?」
「違う、あなた達を失いたくないの。もう嫌なの、人が消えるのが……」
「だから仲間とは認識したくないって?」
彼女はまた俯き「そう」と答える。
こういう時、何を言ってあげればいいのだろうか。神代は目の前で仲間を失って、今回も失いたくないから俺たちを信用できないと言っているのだろう。
「俺たちは大丈夫」なんて確信のない言葉を言っても、彼女は頷かない。そんな結果が見えている。
そう考えていると亮夜が口を開き「あぁ? なら俺たちは……」と言い始めた。
俺はすぐさま被さるように「待って亮夜」と彼を止め、彼に真剣な眼で訴える。
これは『信頼』を勝ち取る交渉だ。
亮夜、本当にごめん。君が言っては意味がないんだ。
俺は彼女に近づく。
思ったことを言おう。自分のできる範囲で、小さくもなく大きくもないそんな言葉。
「神代さん、俺たちを信用しなくていいよ」
「えっ?」
「俺たちは大丈夫なんて、確証も確信もないし、そんな自信は俺にはない。でも信頼してくれたら、嬉しいかな」
「……」
「ねぇ、神代さん。本当は信じたいんじゃないかい?」
「……!!」
彼女は驚いた顔で俺を見つめる。
言葉の裏には本性が隠れているものだ。人は本性を隠して生きている。それは自分で仮面を作り、自分は平気だと言いたいからだ。辛いこと、しんどいこと、苦しいことがあっても仮面は変わらない。しかし、仮面の裏では泣いている。
彼女の瞳から一滴の雫が頬を伝い流れる。彼女は左手を頬に触れ、その手を見つめる。
「なんで? ……やめてよ。いや、やめて」
そう言いながら彼女の瞳から涙が溢れる。
「泣きたくないの、泣いたらダメ。……いや、いや……いや……」
う、うっ、うぅ、うぅぅぅわぁぁぁ、うわぁぁぁぁぁぁん
彼女は溢れる涙を手で止めるかのように、顔を覆って泣くのであった。
ずっと我慢してきたのだろう。ずっと一人で必死に抱え込んでいたのだろう。関帝廟で聞こえるのは彼女の泣く声だけであった。
少し時間がたった。神代も落ち着き始める。
女性が泣くのは気まずいものだ。俺が彼女に悪いことをしたみたいじゃないか。
岩城がからかうように「大神くん、神代さんを泣かしたよ! わーるいんだ、わーるいんだ、せんせーいにいってやろ!」と歌い始める。
それにつられて、ブギーマンが俺の目の前に現れ「こら大神くん、ダメでしょっ! めっ!」と優しすぎて叱れない先生のように俺を叱る。
正直うるさい。なんで俺が標的になっているわけ? まぁいいか、神代さんは落ち着いただろうか。
そう思い彼女を見ると、少し微笑んでいる。
その姿に亮夜が「おぉ? 笑ってるじゃねぇか?」とからかうように言うと、彼女は少し頬を赤らめた。
彼女は隠すように慌てて立ち上がり、腕を組みこう言った。
「わかった。信頼してあげる。信用はしないけど」
こうして彼女は仲間になった。
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