第二章 第二十二話 誘い

「ふざけてんじゃねぇよ! とっととなわほどけ!」


「それが人に頼む態度ですかぁ?」



 パチン



 ブギーマンが指を鳴らした瞬間、手脚首に開放感を感じた。両腕が動ける。右腕を目の前に持っていき、手首を見ると縛られた痕がある。てのひらはすこし赤くなっている。相当強く縛られたようだ。


「おい、神代。さっきのはどういうことだ?」


 亮夜が怒っているのがわかる。それもそのはずだ。先程の戦闘で聞いたエルファバが言ったことを思い出す。


「その子はね、アナタたちを信じていないの。自分ひとりで解決しようとしたの」


 あぁ、思い出さなければよかった。亮夜はそのことについて聞くのだろう。


「あんた本当に一人で解決しようとしたのか?」


「……」


 神代は黙ったままだ。この雰囲気に耐えられなかったのか、岩城が「まぁまぁ、ここは落ち着いて話そうよ」と間に入るが、亮夜は「岩城は黙ってろ!」と一喝する。岩城は下に俯き「……ごめん」と言うのだった。


「おい、早く言え。言わねぇって事は肯定したって意味になんぞ」


 手首から視線を声のする方へと変える。石畳に座っている神代の前で、ヤンキー座りで睨む亮夜。


 俺はこの雰囲気が嫌いだ。緊張感がある。いや、気まずいというものだろうか。早く言ってくれ。早く話を進めてくれ。そう願うのだ。


 神代と視線が合う。彼女の表情から助けてや、どうにかしてなどの困った顔ではなく、ただ無表情に俺を見ていた。


「はぁ、そんなに睨まないでくれる? わかった言う。言うから……」


 そう言うと彼女は立ち上がり、ヤンキー座りしながらガン見する亮夜を無視して、東屋の階段に腰を落とす。


 亮夜、岩城が立ち上がり、彼女に近づくので俺も立ち上がる。


「ブギーマンは何しているんだ?」と思い、彼を見ると、赤青黄色の三色の球でジャグリングをしていた。


 何してるんだ? いや、彼を理解しようとしても意味ないか。


 視線を神代に戻す。彼女は脚を組み。口を開く。


「そう、私は嘘をついた。一人で解決しようとした」


 そのことに対して、俺は心から疑問に思ったことを質問した。


「なんで嘘をついたんだい?」


 全ての核心、物事の中心。俺はその理由が知りたい。


 彼女は「いや……から」と小さく呟く。


 正直聞き取れなかった。


「あ? なんて言った?」


 亮夜が手を組み大きな頭を傾けると、彼女は少し俯き首を振り「んん」と言う。


「今回のは私に来た依頼みたいなものなの。あの戦闘であなた達をすぐ逃すつもりだった」


「じゃ、なんで神代さんがグランドに飛んできたんだよ?」


「失敗したの。ベイカーって猿いたでしょ?」


 ベイカーと聞き、ほうきの上に乗っていた羽の生えた猿を思い出す。


「羽の生えた猿のことかい?」


「そう。私はあの猿を襲って、影の注意をひきたかった。でもあの魔女が現れた」


「で、あの有様ってわけか……」


 亮夜がそう言うと彼女に近づき、大声でこう叫ぶ。


「そんなのはどうでもいい!」


 びっくりした。


「えっ?」


 びっくりしたように見上げ、何回も瞬きをする神代。


「神代、あんた何か間違ってんじゃねぇか? 俺はな、嘘をついたことにムカついてんだよ! これは私の依頼? 俺たちを逃したかった? しょうもねぇ嘘言ってんじゃねぇぞ。関わったからにはもう仲間だ」


「あなたバカじゃないの?」


「あぁ、バカだ。テストなんて赤点だらけだ。でもよ、そのバカに絡んじまったあんたはもっと大バカだ」


「なにその理屈」


「つまり水島が言いたいのは、理屈関係なしに一緒に行動した時点で、仲間に入ってるんだよ」


「仲間……ね」


 彼女はまた下を向く。何を考えているのかはわからない。でも寂しそうに感じた。


「神代さん、一緒に戦わないかい?」


 俺は手を差し伸べるように彼女を誘った。

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