第二章 第十六話 太陽は見つめる
風見鳩の館を出ると、岩城はトゥクトゥクの後部座席に座っている。
亮夜は手を日よけするように
「亮夜どうしたんだ? なんで見上げてんだ?」
「なぁ、宏。太陽ってよ。東から出て西に沈んでいくよな」
「そうだな」
「あの太陽ずっと動いてねぇんだけど」
「えっ?」
太陽が動いてない? そうなのか? そんなこと気にしていなかった。
俺は空を見上げ、確認する。
シャガールの絵のような深い青空に深紅色の太陽が、正午の位置で止まっている。
本当だ。本当に動いていない。まるで空だけ時間が止まっているようだ。
そう思っていると、岩城が「今更かい?」と口にし、視線を彼に変える。
「この世界の太陽は動かないよ。ずっと正午なんだよね。入って
夜がない? 俺たちが当たり前にあるものがこの世界ではないのか。そういう世界なのだろうか。不思議なことばかりだ。
俺はまた見上げた。
太陽かー。最初に入った時もあの太陽が印象的だったなぁ。最初といえば、神代が……あっ!
ちょうどいい所に神代が風見鶏の館から出てきた。
あれを聞かなければ。
「神代さん。聞きたいんだけど」
「何? 早く行きましょ」
「俺が
そうだ、彼女が知っているという事は俺を助けれたのではないか?
「なんでって、あの道化師が一緒に付いてたから、近づきたくなかった。それだけ」
「え?」
「わからなかったの? ほんと、あの大男も見てて
意味が分からない。あの時、ブギーマンなんていなかったぞ?
「わからないって顔してる。まぁ、わからないっか。当事者から見えないと思うし、細かいとこは見えなかったし、大神くん、視界が真っ暗だったんじゃないの?」
「なんでわかるんだ?」
「だってあの路地裏、全部あの道化師が包んでいたもの」
「えっ?」
神代が言うには俺を見つけた時からブギーマンは側にいたらしく、裏路地に入った瞬間、その周辺が黒い霧に覆われ始めたため、神代はその場から離れたそうだ。
「あの道化師、理解できないの。なんか概念とか事象とか完全に無視してるし」
「じゃ、ブギーマンに任せれば全て解決するじゃないか」
「彼はそうしない。彼って言えばいいのかわからないけど。道化師はただ見ているだけ、理由はしらない。毎回、こっちに厄介ごと押し付けて、どっかで見てる。ほんと嫌い」
「神代、あんたの気持ちわかるよ。俺もあいつは嫌いだ。ただの外野が出しゃばるんじゃねぇよって思うぜ」
「ふーん、初めて意見があった」
「そうだな、嬉しくねぇけど」
亮夜は「宏、早く行こうぜ」と俺に言いながら、トゥクトゥクの運転席を跨(またが)る。
「お、おう」
俺はトゥクトゥクの後部座席に座る。しかし、トゥクトゥクは発車しない。
「亮夜、どうした?」
亮夜は「はぁ」とため息を漏らした後、神代を見る。
亮夜と一緒に彼女を見ると、何か
「そんなに見つめられたら、行きたくてもいけねぇんだ。途中まで一緒に乗って行くか?」
彼女は一瞬口角が上がったように見えたが、すぐ元の表情に戻り「乗って行く。ありがとう」と言った後、俺の隣に座る。
亮夜は軽く笑い「素直じゃねぇの」と呟く。神代は聞こえているはずだが、それを無視して「早く出しなさい」と言った。
「ヘイヘイ、行きますよ」
そう言いトゥクトゥクのエンジンをかける。
正直不安だらけだが、俺たちの世界のために頑張ろう。
そう思っていると、トゥクトゥクが走りだした。
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