第二章 第十五話 相違

 亮夜が首を傾げている。


「亮夜どうしたんだ?」


「ん? あぁ。神代、聞きてぇんだけどよ。俺たちに会うまで、あんたは何してたんだ?」


「私? アンの住んでた屋敷の下見と切り裂き大男の調査」


「大男って、宏が襲われたって言ってた?」


「そう」


 俺は立ち上がった。なんで知っているんだ?


「おい、待て。なんで襲われたことを知ってるんだ?」


「なんでって、見てたもの。ビルの上の方でね」


 ビルの上? メリケンパークの時、増えていたから能力なのか?


「能力で生きていたってことか?」


「そうだけど。何、今まで分からなかったの? ふふ、あははは……」


 そう神代が発した途端、彼女は笑いだした。なぜ笑う。


「ははは、大神くん。あなたもしかして、今まで何も考えず夢の世界ヴォロで生きていたの? 本当、なんで生きれてるんだろう? ははは……」


 笑いすぎだろ。


「たまたま、生き残れただけだ」


「ははは……ふぅ。いい? この世界では能力っていう武器があるの。それを理解しなくちゃ、これからは生きていけない。たまたまじゃ生き残れないの」


「そうだな。君はを使えて……」


!? 今あなた、って言った? あはははははは……」


 また笑い始めた。なんだ? 俺が間違っているのか?


「なんで笑うんだ? 君の武器は槍だろ?」


「ふふふ。あー私の能力を認知されてなくて安心したー」


 彼女は微笑みながら俺を見る。


「いい大神くん。この世界で生きていくなら、まず自分を疑いなさい。間違えてないか確認しなさい。そして、考えなさい。私は考えない人が嫌い、考えることを放棄している人も嫌い。理由は簡単、考えないことって猿でもできるの。私たち人間でしょ? 人間なら考えて生きなきゃダメでしょ? 大神くん、あなたはどっち?」


 俺はどっちなんだ。俺は考えているのだろうか。


「俺は……」


「あー、神代さん。本題に戻りたいんだけど、いいかな?」


 岩城が会話を割って入ってきた。


 正直、この会話を終わらせて、ホッとする自分がいた。「ダメだなぁ、俺」と思いながら、ソファーに腰掛けた。


「えぇ、いいわ」


「その屋敷の下見なんだけど……入れたの?」


「それが全然ダメ。どこに行ってもあの猿がいるの。だからあなたたち正面から突っ込んできてくれる?」


「はぁ? おい神代、なに言ってんだよ。なんで俺たちがそんなことしないといけねぇんだよ」


「水島くん。あなたがさっきの戦闘で囮になったように、今回、囮が必要なの。相手は訳のわからない羽が生えた猿の集団よ。囮になってくれたら、どれだけ助かるか、お願い」


 亮夜が俺と岩城を見る。


 こっちを見るな。この状況は俺たちが行かなきゃいけないだろ。


 岩城は軽く首を横に振っている。


「はぁ、また囮かよ」


 亮夜が頭をガクンと落とす。


「大丈夫だよ。今回は三人だから」


「そうだな。亮夜もそう落ち込むな。ピクニックに行く気分で行こう」


「そんな、ワクワクな気分にはなんねぇよ」


「仕方ないんだよ。ここは男を見せようじゃないか!」


 岩城がソファーから立ち上がり、両腕を曲げ、力強いポーズをする。


「知ってっか? 今は男より女の方が強いんだぜ」


 俺もソファーから立ち上がる。亮夜、気持ちはわかる。わかるんだが……。


「亮夜、諦めろ。これは俺たちがしないと、いけないんだ」


 俺は彼の肩をポンと置く。


「はぁ、宏がそう言うなら、仕方ねぇな」


 亮夜も立ち上がり「しゃーねぇ、いっちょ行くか!」と自分を鼓舞し、彼は外に出た。


 岩城も「それじゃ僕も出ようか」と言い、外に出る。


 俺も外に出るかと思ったが、神代がソファーから立っていないことに気づく。


「神代さんは行かないのかい?」


「私は準備があるから、終わったら外に出るから待ってって、あの二人にも言ってくれる?」


「わかった」


 そう答え、外に出ようとする。


 扉が閉まる瞬間、内容は聞き取れなかったが、アンが神代に何か話しているような声が聞こえた。

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