第二章 第九話 爆音が鳴り響く

 岩城は泣き止み。少し落ち着いた。


「岩城、いけるか?」


「う、うん。ごめんよ。時間取らせちゃって。水島、このリュックサック貰っていいかな?」


「あぁ、いいぞ。もともと俺のじゃねぇし」


 岩城はリュックサックを抱えながら「ありがとう」と言う。


「それじゃ、行くか! あっ」


 次は亮夜がハンドルの所を見て止まった。俺は後ろから覗いてみると、ハンドルとガラスの間にミニブギーマンが体育座りをしながら、こちらを見上げていた。


「こいつ、忘れてた」


「ミニブギーマン、プンプン!」


 ミニブギーマンは両手を挙げ、怒っているようなアピールをしている。


 亮夜は「はいはい、ごめんごめん」と軽く言い、ハンドルを握りながら座席に座る。


「岩城くん、乗ろうか」


 リュックサックを強く抱きながら「うん」と答える。何があったかはわからないが、聞く必要もないだろう。そう思いながら、俺たちは全員乗る。


 亮夜が「行くか」と言った瞬間、彼はアクセルを回さなかった。


「どうしたんだ? ……亮夜?」


「なんだあれ?」


 亮夜を避けるように覗き込むと、真っ黒い何かがしゃがんでいた。


 それは現実世界でいうと猿に見えるが、猿にしては顔も体も全て黒い。まるで影が立体化したかのような姿である。赤い眼光がこちらを振り向く。



キィーキィー! キィーキィー!キィーキィー!



 黒い何かがこちらを威嚇する。両手を広げ、黒い翼を広げる。黒い翼? 全身が真っ黒だったから、翼があるなんて分からなかった。


 岩城がその姿を見て、慌てて亮夜に「早くここから離れるよ」と指示する。


 亮夜は「そうだな。嫌な予感がする」と言い。トゥクトゥクのハンドルを右に傾け、アクセルを回した。


「ここまで来ているのか」と岩城が呟く。


 俺は後ろを振り向き、黒い何かが追っていないか、確認するが。追ってきてはいないようだ。


「なんなんだよ、あいつ?」


 亮夜がアクセル全開で運転しながら言う。


「あれは夢の世界ヴォロで起こっている騒動の一つだよ」


「騒動ってなんだ?」


「それは……神代に会ってから話すよ」


 その話を聞きたかったら、あのおもちゃの兵隊を攻略してからってことか。大丈夫だろうか。そう思いながらトゥクトゥクは北能町へ向かうのであった。


 トゥクトゥクが異人館周辺の道に止まり、亮夜以外の全員がトゥクトゥクから下りる。


「宏、これ持っていってくれ」


 そう言い亮夜は、トゥクトゥクのガラスとハンドルの間に座らせていたミニブギーマンを俺に渡した。ミニブギーマンを見ると、瞳をウルウルして亮夜を見ている。なにこれキモい。


「水島、あとは作戦通りにお願いね」


「作戦って言ってもよ、ただ目立って逃げ回るだけじゃねぇか。二人とも煩くなったら、侵入してくれよ。それじゃ、行ってくるわ!」


 大きな声で「オン・マニ・パドメー・フン」と叫び。トゥクトゥクから二輪バイクに変える。そして、そのまま彼は行ってしまった。


「大丈夫だろうか」


「これに関しては彼を信じるしかないよ。僕たちも行こう」


 俺は「うん」と返事をし、ミニブギーマンをズボンのポケットに入れ、洋館に通じる道へ向かった。


 俺たちは予定通り、西側の坂道の前で待っていた。


 おもちゃの兵隊の攻撃で爆煙が立つので、それが合図だ。



ドドドドドドン!!



 爆音と共に黒い煙が立ち上がる。


「おっ、始まった。もう少ししてから行こうか」



ドドドドドドン!!



 再び爆煙が上がる。


「行こうか」


「うん」


 俺たちは爆発音と共に坂道を登り始めた。


 この坂道を道なりに進むと、最終的にたどり着くのは風見鳩かざみばとやかたと呼ばれる洋館である。風見鶏の館は有名な異人の洋館の一棟で、昔ドイツ人が住んでいたそうだ。今では観光名所で有名である。ただし、夢の世界ヴォロではどうなのかは、全員知らない。


 近づくにつれ、岩城は警戒しながら進み出す。手でジェスチャーを送りながら、徐々に近づいていく。


 しかし、何も起こることはなかった。


「僕たちは運がいいね」


「はは」


 俺は苦笑いのまま道を進んで行くと、風見鳩の館の前で、小学生ぐらいのメイド服を着た長い髪を白いリボンで一本結びにしている少女が、左目を瞑りながら地団駄を踏んでいる。


 彼女はオーバーリアクションで「なんで撃たれて倒れないのですか! おかしいじゃないですか!」と叫ぶ。


 またメイド服が大きいのか、手全体を覆ってしまっているので、余った袖が気になってしまう。


 何か鼻息が荒いと思うと、岩城が彼女を直視している。


「萌え袖幼女、本当に存在したんだね……はぁはぁはぁ」


 その視線に気付いたのか、彼女は見てわかるようにゾクゾクと背筋を震わせ、こちらに振り向く。


「あっ……」


 彼女は固まるのであった。

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