第二章 第八話 思い出のリュックサック

 気がつくと東屋あずまやで土器のような丸机を見つめながら、土器のような丸椅子に座っていた。


 夢の世界ヴォロに入ったのか。向かいには亮夜が座っていた。昨日と同じ席だ。


 亮夜が鳥居の方を見ている。何かあるのか?


 振り向くとそこに岩城が立っていた。


「やぁ、待たせたかい? ふっ、水島。すごい顔だね」


 そう言いながら岩城は東屋に入り、亮夜と俺の間の丸椅子に腰掛ける。


「顔っていうか。仮面だけどな」


「岩城くん。今回のことだけど」


「そうだね。現実世界で言ったけど、今回は水島が本当に重要だよ。君が囮になってくれないとこちらが侵入することができない」


「で、どうおとりになればいいんだ?」


「それはねぇ……」


 岩城が言うには襲撃された場所は、風見鳩かざみばとやかたと呼ばれる洋館へ通じる道の一つで、その洋館に行くにはあと二つ道があるらしい。東西に一本づつちょっと歩くが、警戒されている道を突撃するよりも安全に進むことができるだろうと。


 また岩城は「神代さんはそこにいると思うよ」と発言した。亮夜が首を傾け「なんでわかるんだ?」と質問する。


「彼女は慎重なんだよ。今回、切り抜ければ会ってくれると思うよ」


 亮夜が机に肘をついて大きな頭の仮面を凭れさせながら「ふーん。何様なんだか」と気怠けだるげそうに言う。


「わからなくはないけど。彼女はそれぐらい強いんだよ。で、君たちをためしている。実際、戦えるかって。僕はそう思うよ」


『戦えるか』か。現代の日本ではアニメやゲームでしか、聞かないよな。アニメのキャラクターがよく漫画の世界じゃねぇんだからと言うが、実際はそれしか例えようがないのだ。パラレルワールド? 幽霊? オカルト? 実際いるんじゃないだろうか。なぜなら俺が今、ここでありえないことを体験をしているからだ。


 それでもありえないと言う人がいるのならば、それもいいだろう。それは幸せなことだ。


「……くん、大神くん?」


「ん?」


「話聞いてた? 今はぼーっとする時間じゃないよ」


「ごめん。聞いていなかった」


「どうしたんだ宏? 具合悪いのか?」


「いや、ただ考え事をしていた」


「そうか、なら良かった」


「話って?」


「うん、もう一回言うよ。作戦は実に簡単。水島が東の道で大暴れするから。その間に僕たちが西の道から侵入するよ。わかったかい?」


 俺は「うん」と顔を盾に振る。


「ならよし! じゃ、水島。トゥクトゥク出して」


「ん? トゥクトゥク? なんだそれ?」


「んーそうだねー、後ろに人を乗せれる三輪バイクを出してくれるかな?」


「あぁ、わかった」


「それじゃ、行こうか」


 そう言い俺たちは一斉に立ち上がり、東屋を出て門を出る。


 亮夜は道路に瓢箪を投げ「オン・マニ・パドメー・フン」と呪文を唱える。瓢箪はトゥクトゥクに変わりそのまま着地した。


「うわー、久しぶりだなー。そうだよ、これこれ」


 誰よりも先に岩城がトゥクトゥクに近づき、後部座席を見て止まる。


「岩城、どうした?」


「なにかあったのかい?」


 俺たちもトゥクトゥクに近寄ると、後部座席に謎のリュックサックが置いてあった。


 岩城はそのリュックサックを取り出し、慌ててチャックを開け、中身を見る。


「ここにあったんだ」


 そう言いリュックから取り出したのは、使い古されたトランプカードの箱であった。


 それを見た瞬間、彼の瞳から涙が溢れ、リュックごと抱きしめ、崩れるように膝をついた。


「いたんだよ。……ちゃんといたんだよ」


 何が起こったのかはわからないが、俺たちは岩城を見るしかできなかった。


「なぁ、宏。俺もあんな感じだったのか?」


「あぁ、そうだ」


「マジかぁ」


 彼が落ち着くまでただ見ているのであった。

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