第二章 第七話 三人目の戦士

「岩城……今なんつった?」


 亮夜は目を見開きながら岩城に問う。岩城は自然にこう答える


夢の世界ヴォロだよ。君たちが知らないわけないよね?」


「岩城……くん。なぜそれをここで言うんだ?」


 俺は岩城に質問した。この話はこの現実世界で話していいものなのか?


「大丈夫だよ。人は理解できないものを聞こうとはしない。それとここはオタロードだよ。ちょっとおかしい人が変な話をしているしか思わないよ」


 俺は周りを見渡す。確かにこれを聞こうという人はいない。みんな個々で通路を通っている。


「しかも、ここにいる人は基本何か買うために来てるから。自分のことしか考えていないよ。君たちは変に意識しすぎている。さっき通った通行人からしたら、僕たちは赤の他人で、僕たちからも彼は赤の他人だ。だから話してよ。夢の世界ヴォロにいた……いや、なんで夢の世界ヴォロの関帝廟にいたの?」


 岩城の目つきが変わる。それは神代のような怒りは感じない。しかし、真剣に聞いているのがわかる。これは下手に嘘を言ってはいけない。なにかすごいオーラを感じる。


「それを言ってなんの意味があんだ?」


「水島、質問しているのは僕だよ。質問を質問で返さないでくれるかな? さぁ、教えてよ。返答次第では僕は君たちと敵対関係になるから」


 俺は亮夜を見る。亮夜のもみあげ辺りから一筋の汗が流れる。圧倒されているのだ。亮夜も俺が見ていることに気づき、俺を見て頷く。


「それは俺が言う。岩城くん」


「僕はどっちでもいいんだ。さぁ、話して」


 俺は岩城にこれまでの事情を話した。大男に襲われたこと、猪に襲われる亮夜に会ったこと、神代と戦ったこと、そして、なぜか関帝廟という寺に向かったこと。全てを話した。


「なるほど。だから関帝廟にいたわけだ」


 そう言うと小声で「ブギーマンも絡んでいるな」と呟く。


 ブギーマンと絡んでいると何かあるのか? そう質問しようと思ったら、先に亮夜の口が動いた。


「なぁ、岩城」


「なんだい? 水島」


「聞きてぇんだけどよ。俺の能力……わかるか?」


 亮夜がそれを言った途端、岩城は少し俯き、悲しい顔になった。


「知ってるよ。でもわからない」


「あ゛ぁ? どっちだ?」


「そんな怖い顔しないでくれるかい? 能力は知ってるよ。でも……わからないんだよ」


「ふざけて言ってんのか? さっきは敵対するかしないかみたいなことを言っててよ」


「ふざけてなんかいないよ。その能力の本質なんてわからない。当たり前だろ? 今は君の能力なんだから。それを教えてほしいって言う君が、その能力を理解しようとしていないんじゃないかい?」


「んだと?」


 亮夜が一歩岩城に近づく。


 まずい、亮夜を止めないと。


 俺は亮夜の前に割り込み両手を広げ、止めるよううながす。


「亮夜、落ち着け。岩城くん、君は味方なのか? それとも……敵対するのか?」


「それは問題ない。僕は君たちの味方だよ。協力しないといけないみたいだ」


「それは良かった。これからもよろしく!」


 俺は岩城に手を出し、握手を求める。


「うん、改めてよろしく。君は信頼できそうだ」


 そう言い俺の手を握る。


「亮夜も」


 亮夜は岩城を見ずに「ん」と大きな声で手を出す。


「水島もよろしく。さて、神代さん合流作戦で必要なのは囮だ。というわけで受けるダメージがノーの水島に頼みたいんだけど。いけるかい?」


 えっ? 亮夜、ダメージ受けてなかったのか?


「おい、さっき能力はわからないって言ったじゃねぇか」


「わからないけど。知ってるとも言ったよ」


「そうなのか? 亮夜」


「あぁ、へんな能力だよ。しかも、相手にダメージを与えられないおまけ付きだ。使えねぇ」


「使えるか使えないかはその人自身の問題だよ。大神くん、彼は囮でいいかな?」


「亮夜は大丈夫なのかい?」


「あぁ、問題ねぇよ」


「詳しくは夢の世界ヴォロで話すよ。関帝廟にいて。 じゃ!」


 岩城はそう言い、俺たちから離れる。その背中を見ながら、亮夜がこう言った。


「俺たちはどうする?」


「そうだね。どこか遊ぶところはないか?」


「あぁ、いいところがあるぜ!!」


 俺たちはボーリングをした後、解散した。


 今日はどんな夢を見るのだろうか。

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