第二章 第六話 オタロォォォド

 ぼっかけ焼きそばを食べ終え、俺たちは店を出る。


 味の感想を言うなら、スジ肉が煮込まれ、味が染みていて美味しかった。あとは普通の焼きそばである。甘いソースだったな。


「では行こう僕たちのオアシス!」


「僕たちって……俺は興味ねぇんだけど」


 亮夜がそう呟くが、岩城はそんなのお構い無しといった具合でスキップしながら、地下の細い道を進む。正直、そのスキップで周りから白い目で見られているのが、わからないのだろうか。


 俺たちはそのまま岩城の後ろをついて行きながら、エスカレーターに乗り、二階へ赴く。


 二階に着いた途端、両手を挙げ大きな声で「ここが! 僕たちのオアシス。オタロードだぁぁぁ!」と叫ぶ。


 亮夜は慌てて岩城の口を塞ぐ。


「ばかやろう。周りを気にしろ」


 岩城はフゴフゴフゴと何か反論しているみたいだが、聞き取れない。そう思っていたら急に岩城の口から亮夜の手が離れる。


「あんた俺の掌、舐めやがったな!?」


「へへ、僕の口を塞ぐ君が悪いんじゃないかい? ほらまた塞いでごらんよ。ペロペロキャンディーみたいにペェロペェロしてあげるよ」


「やらねぇよ! うわぁ、キモチワル。便所はどこだ?」


「それじゃ付いて来て!」


 俺たちは岩城のあとに付いて行く。亮夜が「あーもう、気持ち悪い」とつぶやいているが、俺はこのビルをあちこち見回していた。


 このビルは昔からあるのだろうか。今のビルと何か建て方が違うような感じがする。


 なんていうか古い。


 そう思いながら通路を渡る。通路に並ぶ店舗を見ると、こっちの世界の意味がわかった。


 店舗に置かれている品はフィギュアや漫画、アニメにアイドル、声優なんてものもあった。あっ、Vtuberブイチュウバーグッズだ。


「おっ、Vtuberが好きなのかい? Vtuberいいよねぇ。このグッズの中に推しはいるの?」


「推し?」


「君の好きなVtuberだよ」


 俺はグッズを見回す。


「んー……ここにはいない」


「あー、まだ有名じゃないのかな」


「たぶんな」


「んー、やっぱ俺にはわからん。それよりも便所に行きたい」


「ごめん」


「宏が謝る必要ねぇよ。原因は岩城だ」


「テヘッ☆」


「何がテヘッだ。早く連れて行け」


「はいはーい」


 どうもここはマニアックな人が好きな場所なのだろう。さっき以外のものでカードゲームのカードやプラモデル、ジオラマも売っている。


 歩いていると岩城が立ち止まる。


「ここがおトイレだよー」


 そう言い、手を差し出し亮夜を指示する。


「手、洗おう」


 亮夜がお手洗いに入ると、岩城が俺を見る。


「どうだい? ここは素晴らしいだろ?」


「素晴らしいかはわからんが、マニアックなものがあるのはいいと思う」


「だろう? このハイカラの街、幸戸にこんな場所があるんだよ。素晴らしいよね。最高だよね」


「追いやられたとは思わねぇのか?」


 亮夜がお手洗いから出てきた。


「だってよ。大坂おおさか日本橋にほんばしは普通に表で商売しているのに。こっちはビルの中だけだぜ」


「仕方ないよ。最近になってこういうサブカルチャーは有名になっていってるけど。現実はこういうのを悪だと言ってる。一部の馬鹿のせいで、危険視されるし、好きなものを好きって言えないんだもんね。幸戸の色には似合わないからここにあるんじゃないかな」


 岩城は通路に並ぶ店舗を見渡す。


「はぐれ者はひっそりとしたところがお似合いなんだよ。理解してくれないし、理解しようとも思わないんだから」


 少し沈黙した後、岩城が俺たちに振り向き、衝撃の一言を口にした。


「ねぇ、大神くんに水島。なんで夢の世界ヴォロにいたの?」





「「えっ?」」





 俺たち二人は口を開き、ただ岩城を見つめのであった。

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