第二章 第三話 継承者

 本堂を出ると、東屋あずまやに漆黒肌にピエロ姿の男が、中国のお茶をたしなんでいる。


「ふぅーふぅー、手、あちゅい!!」


 手に持っている茶杯ちゃはいを土器のような丸机に置き、両手を軽く手を振る。そして、俺たちを見る。


「やっと、出てきたんですねぇ」


「ブギーマン」


「なんで、あんたがいんだよ」


「なんで? んー……久しぶりに立ち寄りたいなぁって思って、寄っただけですよぉ」


「そうかい、じゃ……」


 亮夜は早歩きで東屋に入り、ブギーマンの向かいに座る。俺はというと、亮夜を追うように付いて行き、亮夜の隣に座った。


「なんで俺はここへ向かったんだ? なんでここが安全だとわかったんだ?なんで……」


「泣いてしまったのか……」


 漆黒肌のスーツの男は亮夜に微笑む。いつもは愉快な感じで笑うのに、穏やかで何か懐かしむような笑顔であった。


 そんな顔を尻目に大きな頭の仮面はブギーマンを見ながらこう言う。


「知ってんだろ? 俺の名前を知ってるように」


「知っています。でも私はなんでもは言えないんです。ただ、これだけは言えます。あなたの能力をトランプで例えるなら……」


 そう言いブギーマンは白い手袋をつけた左手を出し、掌、手の甲を交互に見せた後、その手から道化師クラウンの絵柄のカードが現れた。


「JOKER《ジョーカー》? ババって意味か?」


「いえ、っていう意味です。あなたの能力は特別なんです。よく言うでしょ、君は私たちの秘密兵器だって」


「じゃーなにか。俺はマスコットってことか? ……ふざけんなよ! 使えねぇって事じゃねぇかよ!!」


 亮夜は立ち上がり、ブギーマンに襲おうとしたので、咄嗟とっさに立ち上がり彼を抑える。


「亮夜! 落ち着けって!」


「落ち着け? 俺は今、馬鹿にされたんだぞ! なめ腐りやがって……」


 襲う気はなくなったのか、彼は抵抗しなくなったので、ゆっくりと両手を離す。


「神代がこいつを嫌ってる理由がわかったよ。こいつはただ観て、茶化して、当事者のことを考えない外野じゃねぇか!」


 指を指しながらそう言った後、「ん゛っ!」と叫ぶ。


「宏、すまねぇ。本堂の裏に行ってくるわ」


 俺は「わかった」と答えると、亮夜は本堂の裏に向かう。


 彼の姿が見えなくなった途端「クソッタレが!!」と叫び声と苦悩の叫びが聞こえた。


 それを見ていたブギーマンは「継承……ですか」と呟く。


「継承? なんの事だ?」


「いえ、ただの独り言ですよ。宏さんもどうですかぁ? 中国茶? 美味しいですよ」


 俺はブギーマンの向かいに座り「いただきます」とお茶をもらう事にした。


 熱い。茶杯を持つと熱を感じる。


「熱さがわかるっということは生きている証拠です。あなたたちにとっては夢かも知れませんが、私たちにとって夢の世界ヴォロは現実なんです。ふぅーふぅー」


 ブギーマンは一口飲み「あちゅい!」と言う。俺も一口飲む。お茶の独特の味がする。味覚もあるのか。俺は一杯飲み干した後、ブギーマンは立ち上がる。


「ちょっと長居してしまいました」


 そう言うと彼は両手を合わせ、広げると風呂敷が出てきた。それを茶器に被せる。そして、風呂敷を引くと茶器は全て無くなっていた。


「申し訳ございません。その茶杯を返してもらっても?」


「お、おう」


 俺は茶杯をブギーマンに渡す。風呂敷に茶杯を入れ、そのまま纏めると風呂敷はだんだん小さくなる。両手を合わせると風呂敷は消えていた。


「では私はこれで失礼します」


 そう言い東屋を出る。


「あっ、そうだ! 宏さん、占いはお好きですか?」


 彼は俺に近づきながら、胸ポケットから何かカードの束を取り出し、広げる。


「好きなの一枚引いてください」


 そう言われたので、真ん中の一枚を引く。そのカードを裏返すと一人の男が小さい荷物を担いでいる絵であった。


「THE FOOL《ザ・フール》。それがあなたのカードです」


 カードから視線を話すと、ブギーマンは消えていた。

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