第二章 第四話 ネカフェの天使

「あいつ、行ったのか?」


 本堂の裏から落ち着いた亮夜が姿を現す。


「うん、行ったよ」


「そうか……悪かったな」


「ううん、大丈夫。混乱したんだろ? 俺もしたから」


 亮夜は「そうか」と返事をした後、東屋に入り、俺の向かい側に座る。


 そして、大きな頭をした仮面が俺を見つめる。


「なぁ宏、今回は無理だ。起きて対策を練ろうぜ。明日は土曜日だから、どっかで集合して作戦会議しよう」


 確かにそうした方がいいのかもしれない。今回のおもちゃの兵隊は謎が多い。対策を練って行動した方がいい。


「わかった。どこで集合するんだ?」


「そうだな。パイやまにしよう」


 パイ山? なんだそれは? パイでできた山か?


「パイ山?」


「知らねぇのか。んー参ノ宮駅って一つだけじゃねぇのは知ってるか?」


「知ってる。JPジェーピー藩急はんきゅう藩神はんしんだろ?」


「そうだ、その藩急東口の北側になんか出っ張ってるオブジェがあるだろ?」


「あー、石畳のところ?」


「そうそう、そこで集合しよう。起きたらスマホで連絡するから」


「わかった。じゃ、起きたらよろしく」


 俺はポケットから手鏡を取り出すと「おう、まかせろ」と亮夜が言い、彼も手鏡を取り出す。


 俺はそのまま手鏡を見つめる。




 目覚めると、いつもの部屋であった。


 スマホから着信音が鳴る。俺はスマホを取ると、メッセージが送られていた。


 亮夜からだ。


『おはよう。昼十一時にパイ山集合な』


「了解っと」


 俺はそう口にしながら、タップしメッセージを送る。


 スマホの時刻は八時半。


 なかなか寝たな。集合時間まで暇だ。


 スマホから動画サイトアプリを開き、適当な動画を見ながら時間を潰す。


 動画を見続けると時間というものを忘れてしまう。


 ネカフェに住む天使という設定の配信者の動画を見ていると、いつの間にか時刻は十時半になっていた。


「ヤバッ、着替えなくちゃ」


 俺はスマホを机に起き、服を着替え、出る準備をする。


「よし、行くか。いってきます……ふっ、誰もいないけど」


 そう言い玄関の扉を閉め、参ノ宮に向かうのであった。




 藩急参ノ宮駅の北側に石畳の広場がある。通称『パイ山』と呼ばれているそこは、参ノ宮駅の花壇同様、人がよく集まり、集合場所として使われている。


 石畳の広場に近づくと亮夜がスマホをいじりながら待っていた。


「ごめん。待たせたか?」


「ん? いや大丈夫だ。そんじゃ行こうぜ」


「どこに?」


「参ノ宮センター街」


 参ノ宮センター街とは繁華街にあるアーケードのついた商店街である。休日となると多くの買い物客が賑わう場所である。


「なんでそんなところ行くんだ?」


「早めに昼飯食おうぜ。で、いっしょに散歩でもしようや」


 俺たちは参ノ宮センター街に向う。高架下を南に歩いていると、亮夜が急に止まる。


「どうした?」


 彼が見ていたのは交差点だった。


「俺たち、ここで戦ったんだよな?」


 そこは亮夜にとって初めて戦闘した場所。この世界ではない夢の世界ヴォロで体験したこと。それを思い起こしているのだろう。


「そうだな」


「でもこの世界では何もなかった。ビルが壊れていなければ、道路のアスファルトが剥がれてもいねぇ。ほんと、なんなんだろうなぁ。あの世界は」


 亮夜が俺に振り向く。


 そんなの俺が知るわけがない。そう言えば簡単なのだろう。お互いが知らない。知る必要がない。


 でも俺はこう言うのだ「そのままだと思う。夢の世界ヴォロだ」と。


 亮夜は何も表情を変えずこう言った。


「それほんと便利な言葉だな。それじゃ行くか」


 俺たちはそのまま横断歩道を渡り、参ノ宮センター街に入るのであった。

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