第二章 ヴァンパイアシスターズ
第二章 第一話 神代の居場所
「ツギ、ミギ!」
ミニブギーマンにナビされながら、進む瓢箪の形をしたバイク。俺は落ちないようにしっかりと取っ手部分を強く握る。
「こいつ、うるせぇんだよな」
「ア゛ァ!」
「うわっ、びっくりした。」
「トリ! トリ!」
ミニブギーマンの左腕が上を指す。亮夜が「鳥?」と一瞬上を見ると、「ふっ、コウモリじゃねぇか」と言うので、俺も上を見る。
それは確かに黒い、全身漆黒で深い真っ青な空と同化して見にくい。目を凝らしてみる。俺はそのコウモリに違和感を覚えた。コウモリって羽と手脚付いてたっけ?
キィーキィー! キィーキィー!
上空から猿のような鳴き声が聞こえる。
「水島、スピード上げろ」
「おう、そうだな。これはおかしいな」
俺たちはそのままスピードを上げ、流星学園を通り過ぎると、その声はしなくなった。
「あの音は何だったんだ?」
「君の言っていたコウモリだよ」
「コウモリがキィキィ言うか?」
「普通は言わない。でもこの世界だったら、キィーとかイーとか言うんじゃないか?」
「そういうもんか」
「そういうもんだ」
「ツギ、ヒダリ!」
そうナビされ、バイクは坂道を登り始めた。バイクは北へ北へと進んでいる。
幸戸(こうべ)は北は山、南は海と土地として実にわかりやすい。北へ向かっている。つまり俺たちは今、山に向かっているのだ。現実世界の幸戸の山側には有名な観光地がある。
「コノママ、マッスグ!」
「このまま真っ直ぐって、北能町(きたのうちょう)じゃねぇか」
北能町、そこには異人が住んでいた洋館がある。異人とは昔の外国人のことだ。その外国人が住んでいた集落が現実世界の幸戸では観光地とされている。
「なんでそんなところに神代がいるんだ?」
「そんなのわかるわけねぇじゃん」
「ココ、ヒダリ! ヒダリ!」
ミニブギーマンがそう言うとバイクは止まる。左側には石畳の階段とその奥に坂がある。
「なんだここか。それだったら北能坂上がればよかったな」
その石畳の向かい、俺たちからしたら右側には参ノ宮に向かう北能坂という坂道がある。
「まぁいいか、この先、走れる坂があるから、そこから入るか」
亮夜がバイクを出発させようとした途端、プカプカと宙に浮いている白い袋が俺の視界に入った。
「ちょっと待って。あれなんだ?」
俺は宙に浮かぶ袋を指す。亮夜もそれを見る。
「なんだ? あのビニール袋?」
亮夜がそう言うとビニール袋みたいな何かが消える。
思わず「消えた?」と声を出してしまった。
ザッザッザッザッザッザッ
坂の奥から大勢の何かがこちらに向かって来るのがわかる。
なんだ? 何が来るんだ?
ザッザッザッザッザッザッ
音が大きくなるにつれ、姿も見えてくる。足並みを揃え、向かってくるのは長銃を持ち赤い軍服を着た五十センチぐらいのおもちゃの兵隊だった。
おもちゃの兵隊は階段の上を一列に並び、一斉に銃口をこちらに向ける。
肌がピリピリする。俺は慌てて声を出した。
「亮夜! すぐ坂を下(くだ)れ! 」
「お、おう!」
亮夜は慌ててハンドルを右に回しアクセルを回す。
「撃てーー!」
聞きなれない少女の声が聞こえたが、バイクは坂を下り始めていた。
後方からは一斉に銃声が轟き、爆風がバイクを押す。
「「うわあっ、ああああああ!!」」
一瞬、無重力を感じた。
あっ、浮いてるのか。俺はバイクの取っ手を強く握り、座席から離れないようにする。
縦に衝撃を感じた後、そのまま道路に着地し、亮夜がハンドルを切ったのだろう。センターラインを遥かに越え蛇行し、そのまま勢いよく坂を下(お)りる。
「こえーこえーこえーこえーこえこえ!!」
仮面からは表情はわからないが、声で亮夜が慌てているのがわかる。
俺はというとバイクの取っ手を握り「うわぁぁぁ」と叫んでいた。
北能坂を下り、平坦な道になるにつれ、ゆっくりと速度が落ちる。
亮夜が「死ぬかと思った」と、ハンドルに両肘を置き屈(かが)む。
俺はと言うと、放心状態で真っ直ぐ見ていた。
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