第一章 第十六話 神代を追え
負けたくない。負けてたまるか。ここで諦めてたまるか。俺は未来の俺のために生きて、生きて、生き残るんだ。
相手は何百万もの槍、今は神代 零ではない。この槍だけを壊していく。不思議な感覚だった。俺に向かってくる槍が一本一本遅く感じた。前にあったゾーン状態みたいなものだろう。
槍に触れると勝手に斬れる。斬れる。斬れる。それに慣れると、触れ無くても斬れていた。
いつの間にか俺はただ立っているだけだった。
どうなっているんだ? ただ立っているのに槍が通り抜けるように斬れていく。
右手には剣はない。あるのは鎧……そうか、この鎧が剣なのか。望む力……形のない剣……。
槍が降り終わると俺の周り半径一メートルの範囲で多くの槍が地面に突き刺さっていた。その全てが斬られている。彼女を見ると力を出し切ったのか。槍を握りながら尻をついている。力が入っていないみたいだ。
「なんで、はぁ、はぁ、はぁ……立ってるの?」
俺は近づく、警戒しながら近づく。そして、目の前まで近づき見下ろす。
「俺は立ちたいから立っている」
彼女は見上げ、「私の負け」と言い、両手を挙げた。
「そっちも終わったか?」
声の方に振り向くと、亮夜はもう一人の神代を帯で上半身を縛り引っ張りながら連れてきた。
「本当に双子じゃないの?」
そう言うと俺の近くにいた神代が「ここにいる全員が私、そして……」と言った瞬間、近くにいた神代は銀色の玉になり、亮夜が縛っていた神代は土になった。
「一人でも残っていると全員回収できるの」
鼓のような赤いタワーの付近には陸橋が繋がっている。そこで肘をつきながら、神代は俺たちを見下げていた。
「あなた達の戦力はだいたいわかった。でも不安なのよね」
神代がそう言った瞬間、彼女の背後に漆黒の影が立っていた。
「それはどうでしょうかぁ?」
「きゃっ!」
完全に油断していたのだろう。まさか背後に長身細身でバッチリ服装が決まっている漆黒肌の男が立っているとは思いもしなかっただろう。ビクッとなったのがわかる。
「なんだよ、いたのかよ!」
「えぇ、いましたよっ!」
すごい勢いで敬礼するブギーマン、長身だから目立つなぁ。
「そんなことより、なんであなたがいるのよ! 関係ないでしょ!」
「関係ないなんて寂しいこと言わないでくださいヨー。ブギーマンかなちぃ」
泣くフリをするブギーマン。それに苛立ちを覚える神代。
「あなたはそうやってふざけて、何にも考えていないじゃない!」
「でも戦力はほしい。そして、
「……」
黙る神代。
「図星ですねぇ」
「でも私は嫌よ。特にあのお面を被ったふざけた彼の能力は!」
「はぁ? なんで俺なんだよ!」
「水島くん、私はあなたの団扇の効力が嫌いなのよ!」
ブギーマンが神代の肩をポンポンと叩き「まぁまぁ、熱くなっては伝わりませんよ」と言うが……。
「特に傍観者のあなたには心底ウンザリしてるから」
そう言い、手から蔓を出し、街中に消えていった。
「なんだったんだ? あれ?」
「さぁ」
俺たちの後ろから「あのー大神さんと水島さん」と声をかけられる。
「うわぁっ!? びっくりするから、後ろから声をかけないでくれるか?」
振り向くとブギーマンが立っていた。
「それは申し訳ございません。水島さん。ただー、追わなくて大丈夫ですか?」
「「あっ」」
戦っていたから、目的を忘れていた。
「水島! 瓢箪は?」
「ここにあるぜ! これすげぇんだよ。壊れないんだよな」
「そんなことよりバイク!」
「おう、オン・マニ・パドメー・フン!」
瓢箪を投げると、バイクに変わる。俺たちはそのバイクに跨がる。
「大神、準備はいいな?」
「カミシロ、アッチアッチ!」
ミニブギーマンが神代の場所を言っている。
「あぁ、行こう。なぁ、水島」
「なんだ?」
「俺たち友達か?」
「何言ってんだ? 当たり前だろ?」
「そうか」
バイクが発進する。俺たちは神代を追うのであった。
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