第一章 第十一話 ひとりがふたりになる
目覚まし時計が朝を知らせる。目を開け、上体を起こすと、ちょっと頭が痛い。
カーテンを少し開き、外を見る。
曇りだ。気圧による偏頭痛のようだ。
今日も学校か、今日は亮夜に会わないといけないなと思いながら学校に行く支度をする。
高校生になって、初めての一人暮らし。創作のキャラクターだったら。パラダイスなのだろう。俺は変わりのない部屋を見渡し、こう思う。実際は『無』だ。何もない、何も感じない。ただ一人、この部屋にいるだけ。
ゴミをまとめ、カバンを持ち、部屋を出る。マンションのごみステーションに行くと、黒いジャージを着た
「おはようございます。龍牙さん」
「おはよう。学校はどうだ?」
「普通ですよ」
「そうか、普通か……。姉さんにメールぐらい送ってやれよ。心配していると思うから」
「わかりました。今日送っておきます」
「ああ、何かあったら、連絡しろよ。いってらっしゃい」
俺は「はい、わかりました。いってきます」と言い、その場を離れた。
なんの変哲もない親戚の会話。唯一の救いは大男に追われない、猪に追われないことだろうか。
学校に着くと、正門に凭れかかる亮夜がいた。左手はポケットに入れ、右手を挙げる。
「よっ、さっきぶりだな」
「あぁ、で、どうするんだ?」
「俺は神代と同じクラスだから。放課後、合流しようや。三組だ」
「わかった。聞きたいんだが、なんで茶髪に染めているんだ?」
「バッk……俺はこの学校で
「
「あーなんだ大神? あんたも染めてみてぇのか?」
「今の髪色が気に入ってるから、やめとくよ」
「なんだよ。若い時にしか冒険はできねぇんだぜ?」
「冒険かぁ、今のままでいいよ」
「面白くねぇなぁ」
「おい、水島!」
そう校内から現れたのは、体育着を着た生活指導の江沢だった。
「げっ、江沢」
「お前、髪染めてるだろ。黒に直せ」
「何言ってんすか先生、いつも言ってるじゃないですか。これは地毛でぇぇぇす」
亮夜は髪をいじりながら、江沢に見せる。
「水島、お前が直すまで、毎日言ってやるからな」
「はいはーい。行こうぜ」
「おい、ちょっと待て」
江沢が俺たちを呼び止める。
「なんすか?」
「水島、お前じゃない。転校生ちょっとこい」
江沢が俺を手招きしている。俺は亮夜と目を合わすと、亮夜が「階段で待ってるから」と校内に入る。
「なんですか?」
「お前、水島とはあんまり関わんなよ。今後の進路に支障をきたすかも知れないからな。これは忠告だ、気をつけろよ。行っていいぞ」
「わかりました」
俺は江沢から離れようとした瞬間、彼は小声で「母子家庭だから教育もままならないんだろうな」と耳にした。
下駄箱でスリッパに変え、階段に行くと亮夜が立っている。
「江沢になんか言われたか?」
「水島といたら、進路に支障がきたすってよ」
「チッ、嫌だねぇセンコウは自分が権力持ってるって勘違いしてんだよ。生徒からは先生先生って言われて、自分が偉くなってんだろうなぁ。大神はどうすんだ? 江沢のいうこと聞くのか?」
「興味ない。今は
「そうか……」
「それとお前といて居心地は悪くない」
「そうか。じゃ、今後もよろしくな」
「あぁ」
俺は亮夜と改めて手を握る。
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