第一章 第十二話 昼食は食堂で

「あれ? 大神くんと水島くんじゃないか。珍しい組み合わせだね」


 階段から下りてくる神崎。ただ下りているだけなのに絵になる爽やかさだ。


「どうしたんだ神崎? どこか行くのか?」


 神崎は一瞬、亮夜を見て、こう言う。


「うん。先生に呼ばれて、職員室に用事があるんだ」


「そうか、俺は教室に行くから、また」


「うん、また」


 神崎が職員室に向かうのを確認した後、俺たちは階段に登りながら、亮夜がこう言う。


「優等生様は俺をどう見てるんだろうなぁ。文武両道、容姿端麗、人気者ときた。まるで物語の主人公だよなぁ」


「そうなのか?」


「あんた知らないのか? 一緒にいてるから知ってるかと思ってたんだが」


「俺が転校生だから付き合って貰ってるだけだよ。ちょっと押し付けがましいがな」


「へぇー、じゃ、俺は三組だから。そうだ、連絡交換しとこうぜ」


「わかった」


 連絡を交換したのち、俺たちは別れ、教室に入る。席に着き、教材を机に入れていると、誰かが寄ってきた。見上げると神崎だった。


「どうしたんだ?」


「君はなんで水島くんと話していたんだい?」


 確かに昨日今日で急に話したら、おかしいか。でも夢の世界(ヴォロ )に関することは言う必要ないしなぁ。


「なんでって、たまたま声を掛けられたから。話しただけだよ」


「ふーん、その割には親しいように感じたけどね」


 勘の良い奴だな。あの一瞬で疑問に思ったのか。


「何が言いたいんだ?」


「水島くんは中途半端な人間だよ。自分ではヤンキーぶってるけど、結局は見た目だけで。中身はスカスカだよ。一緒にいないことを薦めるよ」


 おいおい、それを笑顔で爽やかに言うのは、酷というものではないのか。


「あぁ、考えとく」


 今は別れなくていいだろう。彼は必要だから。


「わかった。それは君が判断することだ。僕が言うことじゃなかったね」


 そう言い神崎は自分の席に腰掛けるのであった。


 心配して言ってくれたのだろうか。確かに一般では、外れたことをする奴を軽蔑するし、そういう奴と関わって欲しくないのだろう。でも外れた側は何を考えているのだろう。彼も独りなのだろうか。


 昼、午前の授業は終わったが、空はいつ雨が降るかわからない天気模様。生徒の多くは室内で食べるのだろう。昨日一昨日と違い、教室にいる生徒が多く感じた。


 教室は生徒で賑わっている中、一人の生徒が教室に入ったことで、目線は彼に集中することとなる。


「よう、大神! 食堂行こうぜ!」


 水島 亮夜だ。


「食堂?」


「あぁ! 行こうぜ!」


「俺、弁当なんだが」


 そう言い、通学途中で買ったコンビニ弁当を見せる。


「行こうぜ!」


「いや、だから」


「行こうぜ!」


「……」


 これは断れない案件か。俺はため息混じりに「わかったよ」と言い、食堂に向かった。


 食堂はすごく賑わっていた。この天気では仕方ないだろう。


「ここに座ろうぜ!」


 亮夜は食堂の窓際にある机を陣取り、手招きしている。


 俺は彼の向かいに座り、コンビニ弁当を机に置く。


「俺は食券買ってくるから、待っててくれ」


「わかった」


 亮夜が食券を買うのを尻目に食堂を見渡す。友達を喋る者、食べながら勉強する者、神代 零と喋る女子……神代 零と喋る女子!?


 俺がいる机と反対側で神代 零とショートボブの女子生徒が話している。彼女は独りではなかったのか。神崎だけの情報では一方的であるということか。彼だけの情報だけではダメだな。視野を広く見なければ。


 そう思っていると、日替わり定食を机に置き、座る亮夜。


「よし、食べるか!」


「あぁ」


「いただきます!」


 亮夜は元気に手を合わせて言う。俺は小さく「いただきます」と言い、コンビニ弁当の蓋を開けるのだった。

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