第一章 第六話 三人の愚か者

 朝、下駄箱を開くと手紙が入っていた。


 一回閉め、もう一回開けると、やっぱり手紙が入っていた。


 転校して4日目でラブレターとは……。モテ期……来たな。


 俺はその手紙をパーカーの胸ポケットにしまい、何も無かったかのように、ポーカーフェイスで教室に向かう。いや、ちょっとだけニヤニヤしていたかもしれない。鞄を机に置いた後、直ぐにトイレへと向かう。途中神崎に声を掛けられたが、それを無視してそのままトイレの個室に入る。


 やっと参りました。胸ポケットから手紙を取り出す。丁寧に洋封筒の後ろを開き、内容が書いているであろう二つ折りの紙を取り出す。学校裏かな? 屋上かな? これで彼女ゲットだぜ! 紙を開けるとこう書かれていた。


『五時、教室で待ってて

 神代 零』


 あっ……望み薄だわ。


 正直、律儀に名前を書いて欲しく無かった。昨日の夢、思い出すじゃないか。


 手足がゾクゾクする。たぶんあの夢に関する事だろう。昨日今日で惚れるわけないしなー。惚れられるとも思わないし。いやだなー。


 肩を落としながら教室に戻ると、神崎が爽やかな笑顔で俺の席に座っていた。


「何してんだ?」


「何って君を待っていたんだよ。今朝、挨拶したら目を合わさず、ニヤつきながらトイレに向かったんだもん。今は肩を落として何があったんだい?」


 そう言い、腕を組み背もたれに寄りかかり、「相談に乗るよ」と一言を付け加えた後、自慢げな顔で俺を見上げる。


「宝くじの番号が当たったと思ったら、実はその番号違う会社の宝くじ番号でした。みたいな感じだ。さぁ、分かったら席を立ってくれ」


「ふーん、わかった。どうぞ」


 神崎は席を立ち、何か話し合っている男グループに入り、喋っていた。


 彼は何がしたかったんだろう。まぁ、考えても答えは出ないので、俺は考えるのをやめ、鞄から教材を取り出し、机の中に入れるのであった。


 授業が終わり放課後、教室から生徒が徐々に出ていき、俺一人となった。


 窓の日差しが教室を真っ赤にさせる午後五時。俺は大和撫子から頂いた出席しか書かれていない招待状があるため、自分の席でスマホをいじりながら、彼女を待っていた。一体なんの知らせだろうか。


 教室の扉が開く。入ってきたのはもちろん神代 零だ。相変わらず綺麗な容姿だ。俺のような中の中には到底及ばない御姿だこと。俺は立ち上がり、手紙を見えるように「なんでこんなものを入れたんだ?」と問いた。


「そんなもので嬉しそうにしてたのは誰?」


 おっと、噂が広まるのは早いな。何人か見られていたのか。


「まぁいい、単刀直入にあの世界では自分の身は自分で守りなさい。それから人の心配より自分の心配をしなさい。以上」


 そう言い俺に背を向け、教室から出ようとする。


「ちょ、ちょっと待って、あの世界はなんなんだ?」


 教室を出る瞬間彼女は「異世界」と言い、教室の扉は閉められた。


「ヒント……少なすぎだろ」


 どうも、招待状ではなく警告書だったみたいだ。これは今日もまたあの夢を見るな。肩を落としながら下駄箱で靴に履き替え、正門に行くと一人の男子生徒が頭を抱えていた。小声で

「今日は寝ないぞ、寝てたまるか……」と呟いているように聞こえた。


 ふーん、茶髪だから夜中に何かするのかねぇと思いながら、通学路を歩く。空がだんだんオレンジ色から藍色になっていく。


 だいたいの人は今日が終わるのだなっと思うのだろう。しかし、俺は今晩また夢を見るだろう。何もないといいのだが……。


 不安と心配が入り混じりながら考えていると、見知らぬ人とぶつかった。


「あっ、ごめんなさい」


「いや、こっちこそごめんな」


「何やっているんだい? 早くいくよ」


「そうだぜ! 次の所に行かなくちゃいけないんだからな!」


「はいはい。ん? 君、なんか辛気臭い顔してんな? ……大丈夫や!」


 そう言い、見知らぬぽっちゃりが俺の肩に手を置く。


「君ならできる! 俺が保証したるから、頑張りや!」


 そう言い、「ごめんごめん」と言いながら彼は二人のもとへ行く。俺は彼らのことは知らない。二度と会うこともない。


 でもなぜか勇気を貰ったような気がする。空を見上げると一番星が輝いている。今夜は幸せでありますように。


 そう思いながら家に帰るのであった。

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