第一章 第四話 イカれた男

 森へ近づくに連れ、肌がピリピリと感じてくる。これは大男の時にも感じた。殺気? 第六感? 直感的に身を守れるものだと……思いたい。まぁ、まだ断定はできないから慎重に行こう。

 そう思い背の高い木々に隠れながら肌がピリピリする方へ向かう。


 パンッ!!


 また銃声がした。いったい誰が銃を撃っているんだ? 静かに森の中を移動する。


 ッ! 誰かいる。


 太い木に身を潜めながらこっそり見る。そこにいたのは両手に銃を持っている金髪おかっぱ頭で黒服を着ている男と傷だらけで片腕一本でマチェットナイフを持ち抵抗する大男だった。大男には見覚えがある。そうだ、あの大男だ。俺をサンドバッグみたいに蹴って殴ったあの大男だ。しかし、様子がおかしい。明らかに金髪の男に押されている。大男が声を震わせながら「消えたくねぇ…消えたくねぇ……」と怯えていた。


 イッヒヒヒヒヒヒ……。


 森の中で不気味な笑い声が響き渡る。なんだ? この悪魔のような笑い声は。密林のジャングルで迷い人が、聞き慣れない動物の鳴き声に恐怖を覚えるような感覚だ。


「イッヒハハハハ、所詮はこの程度の能力か。刃物を増やすだけ。しかも、手で触れなければ増えないときた。ははは……。はぁぁぁ、がっかりだよ」


 そう言い彼は両手に持っている銃を構え、大男に発砲する。一発目はマチェットナイフが真っ二つに折れ、二発目は傷だらけで力が入っていない左腕を挙げさせ、最後の三発目はマチェットナイフを握り締めていた右腕を挙げさせた。


 俺はその光景を見て驚愕した。彼が大男を撃ったから? 違う。彼が俺の仇をとっているから? 違う。これは物理的なものだ。人が銃に撃たれるとどうなるだろうか。結果は簡単、倒れるもしくはよろける。しかし、目の前で起きているのはそんな一般常識が当てはまるものではなかった。そう、何もないはずの空間に、まるで壁があるように打ち付けられていたのだ。両手を挙げ、大男は立っている。その姿は磔にされた罪人のようであった。


「消えたくねぇ…消えたくねぇ……」


 金髪の男は大男に近付きながら「イヒヒ、それはどうしてだ?」と笑いながら質問する。


「人間殺して、魂(スピリット)を食って、俺は強くなるんだよぉ」


「そうか、人間を殺してどうだった?」


「美味かったよぉ」


 そう言った瞬間、大男の眉間に穴が空き、森の中で銃声が轟く。そして、大男は黒い霧となり、霧散した。


 俺はその光景を見て、太い木を背に身を潜める。


 なんていうものを見てしまったんだ。これは殺し合いじゃないか。でもこれで俺は殺されなくなったのか。そう考えるとちょっと得した?


「さーて、本題と行こうか。そこで隠れている奴出てこい。出なきゃ…撃つぞ」


 ハッと息を呑んだ。


 えっ? 気づかれた? いや、気付いていた? わからない、でももう少し隠れていよう。ブラフかもしれない。


「数えるぞ、五、四……」


 カウントダウン!?


 はぁ……、バレているなら姿を見せるしかないか。俺は両手を挙げ、ゆっくりと彼に姿を見えるように太い木から離れる。


「……ゼロ」


 パンッ!!


 おったまげた。あいつ発砲しやがった。両手挙げて無防備な状態なのに。あれか? 簡単に乗せられたらダメってことか。仕方ない戦闘の準備を……。



 ドサッ!!



 俺の近くに大きな黒い影が落っこちてきた。自然と視線はそちらを向く。そこにあったのは。いや、いたのは黒髪で長髪の美少女であった。ただ見知らぬ美少女ならこれからの物語はロマンチックなものになっていただろう。しかし、そこに倒れていたのは神代 零かみしろ れい本人であったのは目を見開いてしまった。俺はそのまま視線を金髪の男に向けると、拳銃は彼女に向けられているが、彼もまた俺に対して両眉を上げ、首を傾げている。両者互いに二度見し合うのであった。

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