第一章 第三話 気になるあの娘

 気まずい昼ご飯を食べ終わった後、神崎に彼女のことを聞いた。


 彼女は神代かみしろ れい、この学校では美人で有名らしい。美人というのは納得できる。しかし、なぜ有名なのだろう。


「それはね、撃沈した男子生徒の数が多いから」


「なるほど、振られた奴らが多いのか」


「そういうこと。だから男は寄り付かない」


「同性との関わりはいいんだろ?」


「どうだろうね。話してるところは見たことあるけど……、基本的に一人っていうか、浮いてるっていうか」


 そうなのか、一人なのか。


「大神くんは前の学校の友達と連絡してるの?」


「う、うん。連絡してるよ」


 勢いで嘘をついてしまった。実際は連絡をしていなければ、連絡先も知らない。連絡する必要あるか? いや、ない。違う学校に行けば、あかの他人だ。俺はそう思う。


「そうなんだ。じゃ、僕もその中に入っていいかな?」


 神崎は内ポケットからスマホを取り出す。俺は「いいよ」と答え、連絡先を交換する。


「よろしくね、くん」


 彼は爽やかな笑顔でそう言った。普通なら友達が出来たと喜ぶべきなのだろう。しかし、なぜだろう。素直に喜べなかった。


 今日の授業が終わり、放課後となった。生徒は部活に行く者、そのまま帰宅する者、または役員会議に行く者もいるだろう。俺はというとスーパーマーケットで今日の献立を考えていた。というより悩んでいた。


 いやー、実際何にしようか。正直食器の洗い物を出したくない。でも料理をするということは洗い物を増やしてしまう。お惣菜? 三日連続? 暖かいご飯が食べたい。店で食べるか? いや、安く済ませたいよなー。そう思い半額のシールを貼られた豚の切り身と玉ねぎを買い、エコバッグにそれらを入れる。そして、自動ドアを出る。その時、金髪おかっぱで眼鏡をかけた西洋人とすれ違う。黒い服を着ていて、首に十字架のネックレスをしていたから牧師だと思った。ただすれ違う時、俺を見ていたような気がした。


 その晩、生姜焼きを食べ、今日出た宿題を済ませるのであった。にしても宿題というのは面倒くさいものだ。学生の本分は確かに学業だが、遊びたいお年頃でもある。まぁ、ゲームはまだダンボールの中なのだが。

 視線をダンボールの山を向けても、勝手に片付けてくれないので、風呂に入ることにした。


「ふぅ、いい湯だー」


 湯船に入り天井を見上げるとふと思う。今晩、あの夢を見ないだろうな。というのはもう二度とあんな体験をしたくないからだ。実際、命の危機を感じたし、痛みも感じた。正直怖い。そうだな、空を飛ぶ夢を見たいな。大空に羽ばたく鳥のように気持ちよく、まさに夢心地になるような夢をだな。


「はぁぁぁ」


 思わず息を吐いてしまった。嫌な予感がする。こういう時の感は大体当たるんだよなー。


「よいしょっと」


 勢いよく立ち上がり、風呂場を出て、冷蔵庫に入っている水を飲む。


「ふぅ、明日も学校か」


 そう言っても誰も答えてくれないが、言わないと言葉を忘れそうになるような気がした。そして、俺は明日の準備をする。教科書、筆箱、そうそう宿題も入れて……。ん? なんか眠くなってきた? 頭がぼんやりとしてくる。布団を敷くか。


 俺は布団を敷き。布団に体を預け、そのまま目を瞑るのである。



「ハッ!」



 目を覚ますと昨日倒れた場所で立っていた。


「生畑神社だ。くっそまたこの夢か!」


 俺は頭を抱え、その場でしゃがみこむ。嫌だ嫌だー。またここで殺されかけるのか? いや、今回は無理なんじゃないか? そう思考を巡らせていると、銃声が聞こえた。


 生畑神社には拝殿の裏に森がある。そこからだろう。誰か戦っているのか? なぜだろう、逃げればいいのに体が勝手に森の方に進んでいく。


「えーい! どうにでもなれ!」


 俺は何も考えずに森の方へ走るのであった。

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