プロローグ 第三話 漆黒の隣人

 そこにいたのは身長一九〇センチメートルもあろう長身で細身の人物。


 赤、緑、青の疎らなピエロのような奇抜な服装。


 しかし、目線はそこにいかなかった。


 なぜなら彼の顔が黒い、褐色的な黒さではなく、墨汁のように黒い。


 その漆黒肌しっこくはだに先程歩いた風景を重ね、本能的に危険な奴に遭遇してしまった。


 立とうとするが腰に力が入らない。


 赤髪が揺れ、漆黒肌の頬が裂けるのではないかと思うぐらい口角こうかくを上げ、肌によって目立つ二つの眼が明後日の方向に向く。


 ああ、俺は人ではない何かに目をつけられたのか。こりゃ、死んだな。


「スッッマーーーイル!!」


「は?」


 恐怖から呆然に変わる瞬間であった。


「あっらぁ、驚かせちゃいましたかぁ? まったく誰がこんな事を…あ゛っ、ワ・タ・シかっ!」


 目の前の人物は自分の頭に軽くゲンコツと長い舌をペロリと出す。


 俺はゆっくりと立ち上がり、警戒する眼差しを彼に向ける。


「そんなに警戒しないでくださいよ。大神 宏さん」


 今、俺の名前を言った? 何で知っているんだ?


「なぜ知っているのかって思ってますねっ? 顔に書いていますよぉぉぉ?」


 左頰を指差す目の前の人物、すぐさま俺は顔を拭くように触れるが、手にはインクなどの跡はなかった。


「お前は誰だ?」


「私ですか?」


 目の前の人とは言えない何かはハット帽子を脱ぎ、両手を大きく広げ、白い歯を目立たせるように笑顔でこう言った。


「私はブギーマン! そう名乗っております。以後、お見知り置きを」


 右手に持っていたハット帽子を左胸に持っていき、俺に頭を下げる。


「さてぇ、本題ですが……」


 ブギーマンはハット帽子をかぶり、真っ直ぐな目で俺を見る。


「逃げていては何も出来ず、そのまま殺されますよ」


 無意識に全身に力が入る。


「今、俺にできるのは逃げることしかないんだ」


「そう……ですか」


 彼は拝殿の階段を降り、楼門を背景に振り返る。


「望む力があるのにですか?」


 ブギーマンは笑顔で人差し指を上にあげ、それに釣られて見上げると、そこにあったのは巨大な深紅色しんくいろの太陽と深く不気味な真っ青な空であった。


「おい、ここはどこなんだ?」


 視線を戻すと、そこにはブギーマンはいなかった。


 鼓動が早くなっていくのを感じる。それはブギーマンがいなくなったこと、それからここが俺が知っている生畑神社ではないことを理解したからだ。


 ここから逃げなくては。


 そう考えたつか、空を切る音が左頰をかすめる。


 左頰から液体がじわりと流れ出ているのを感じる。


 右手で液体に触れ、目にしたのはザクロを潰したかのような赤い血であった。


 ゆっくりと頬の痛みを感じてくると共に手、肩、足と順に震えてくる。


「見つけだぜぇ! さっきはやべぇ奴がいたから、隠れていたけどよぉ! やっと、殺せるぜぇ!!」

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