プロローグ 第二話 暗闇の中で

 そこは暗い路地裏、奥の方はバケツいっぱいに入った墨汁を白紙に掛けたように黒い。


 もし奥に進めと言われたら、誰もが躊躇ためらってしまうほど暗黒であった。




 俺は固まっていた。


 俺が暗闇恐怖症というわけではなく、暗闇の中、白い手袋が宙に浮きながら掌を上に呼び寄せていたからだ。




 一瞬、手袋とは反対側を振り向くが、あるのは先程大男から逃げてきた道。


 このまま戻ったら、大男と遭遇するのではないか、そう考え再度手袋を見る。




 手袋が裏路地の暗闇に吸い込まれるように、ゆっくりゆっくりと離れて行く。




 そっちに行けばいいのか?




 手袋を追うように路地裏の奥へと進む。




 奥へ進むに連れ、闇は濃くなっていく。




 頼れるのはこっちこっちと呼び寄せている手袋だけ。




 こいつに付いて行って大丈夫なのだろうか。




 手袋を疑った瞬間、何か柵のようなものを目視することができた。






「柵か? いや、扉か」






 目の前にあったのは柵状の門扉、色は朱色で人が一人入ることができる大きさだ。




 手袋は柵の間をすり抜け、猛スピードで俺から逃げる。




「これで終わりか。ん? 暗闇が晴れてる?」




 暗闇がいつの間にか消えていた。




 扉の隙間から見えるのはアスファルトの地面。




 手袋を追いかけるように扉を開けようとしたが、開かない。




 周りを見渡すと、この扉には南京錠がされている。






「嘘だろ? なんで鍵してるんだよ」






 俺は南京錠を握り、眉間みけんしわを寄せながら見つめた。




 こちとら死にたくねぇんだよ! 開けよ!










 カチッ










 ゆっくり握りしめていた南京錠を見る。




 握っていた南京錠は勝手に開いていた。




 南京錠を扉から外し、それをいろんな角度から観るが、何の変哲のない南京錠である。




 理解できない、でもこの先に行かなくては。扉を開け、アスファルトを踏みしめた瞬間、俺は石畳の上に立っていた。




 目の前には立派な朱色の拝殿はいでん、その拝殿に身に覚えがあった。




生畑神社いくはたじんじゃ?」




 生畑神社とは日本で有名な天照大神の妹神が祀られている神社であり、縁結びのパワースポットとされている。




 こんな場所になぜ俺はいるんだ?




 ありえない、理解できない。




 俺は周囲を見渡し、後ろには楼門ろうもん、その奥には門があることを確認した。もし逃げるならこのルートだな。拝殿の階段を上がり、賽銭の前で手を合わせ、目を閉じる。




 こんな所、消えてし……。




「こんな所で神頼みですか?」




 背後から声が聞こえる。誰だ? いや、さっきまでいなかったよな。




 目を開け、背後を振り向いた。しかし、そこには誰もいなかった。なんだただの空耳か、心から安堵する。




「こっちですよ」




「うわあ!」




 思わず尻餅をつく。


 真横から急に声を掛けられ、腰を抜かしてしまった。


 一体誰なんだこんな時に脅かす奴はと思いながら、目の前の人物に視線を向ける。

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