第一の錦 『復讐鬼は迷宮を目指す』


※はじめに、この物語を読むときは、部屋と気持ちを明るくして、世俗や倫理観から離れてお楽しみください。 





 ここは、最近何かと人気な剣と魔法とその他諸々なファンタジーの世界。



 そしてその世界の片隅で木霊する呪詛の言葉。



「覚えてろよおおお! こんな村ァ、塵も残らないくらいに滅ぼしてやるからなああ! この【検閲】村がああ!」


 ストロイという名のフォレスは、自身の故郷にそう叫んで、そして飛び出した。その勢いたるや、彼女の胸のうちに突如として燃え上がる復讐の炎を表すかのようだった。

 その炎をもって、自らが生まれ育った故郷を今にでも焼き払いたいと心が騒ぐ。

 いつか必ず、この復讐をやり遂げる。誰にも邪魔されることなく、自分がやりたいように故郷を滅ぼすことを力強く誓って旅立ったのだ。






それから早三月が経った。





「──これじゃだめだ……」

 自分を激しく抱いた、名のある剣士の眠る傍らで、彼女は早くも忘れかけていた自らの目的を思い出した。

 

 故郷を飛び出した後、彼女はまっさきに『ラビリンティア』に向かった。ラビリンティアは、一つの超巨大迷宮を囲うように発展した都市。方々より集い、迷宮探索に心血を注ぐ旅人たちの拠点。『迷宮都市』とも呼ばれるそこは、その名にふさわしく迷宮を解き明かすために用意されたといっても過言ではない。

 

 彼女はそこで冒険者として迷宮探検にのぞみ、財宝あるいは名声を手に入れて故郷を滅ぼすための足がかりを作る腹づもりで動いていた。

 

 しかし元より懐が心もとなかった彼女は、とにかく金の工面に困った。店に並べられた粗悪品の弓にすら手が届かない。仲間を雇う頭金すら程遠い。これで迷宮に足を踏み入れるなど、夢のまた夢。

 

 そんな時に、迷宮都市北西にある歓楽街の高級娼館の支配人に声を掛けられる。

「きみのような逸材を探していた! 君ならば一晩仕事をこなすだけで、その美貌は歓楽街中に響き渡ることでしょう!」

 これをきっかけに彼女は、体を売ってインスタントに活動資金を集めようというあまりにも安易で、あまりにも倫理的に危険な考えに至った。

 しかし幸運にも良い支配人と良客に恵まれ、あるいは自らの才能が開花して、速やかに名誉称号『夜の蝶』(主に格式高い高級娼婦と認められた者に与えられる称号)を得る運びとなる。

 そのせいで娼館での生活が思いの外心地よく感じ、また簡単に財布が膨らんでいくために心が踊り、つい先程まで「自分がなぜ娼婦になったのか」ということさえも忘れてしまっていたのだ。


「(武具や道具を買うに十分な金は手に入ったのに、なんで復讐のこと忘れちゃったかな、私……。このままじゃ復讐鬼じゃなくて、伝説の夜の蝶として歴史に名を刻んでしまうぞ……)」

 思い立ったらすぐ行動。次の日彼女は、違約金を支配人に押し付けて娼館を去ることにした。支配人は、「君の会員番号は欠番にしておくので、気が向いたらすぐに帰ってきて」と涙ながらに見送っていった。


 彼女には『弓術の才能』と、いくらかの『魔術の才能』があった。それに則して高級な弓と矢一式、機能性に富んだ矢筒と軽量で丈夫な鎧、魔術を用いるためのアクセサリー、その他冒険に必要になるであろう物を片っ端から買い込む。

 最初は以前手の届かなかった品々に容易く手が届くのが嬉しかったが、一向に目減りしない財布の中を見て、次第に自分の浪費した時間を惜しむ気持ちが大きくなっていた。


「これじゃまんまおのぼりさんだ……。実力がないうちに高級装備でガチガチに固めても、悪意のある冒険者の追い剥ぎに狙われやすいっていうのになあ……。でも今日に限って粗悪品と高級品しか店頭に置いてないなんて……」

 今日は冒険の準備だけで大きく時間を費やし、いつの間にか日が暮れた。公衆酒場で一杯決めながら今後の方針を模索していた。

「単独で迷宮に潜るのは危険すぎる。ここは熟練者、といかなくてもある程度腕の立つ傭兵や冒険者を数人雇わないと。といっても、私の元客しりあいは当てにならないし、かといって別のパーティに加入するにも売りにできる実力は(夜の蝶時代の技術しか)ないし、ここはとりあえず冒険者協会を──」

一人ブツブツつぶやき、考え事をしていたところに、男3人組ジョッキを片手に彼女に近づいてきた。

「ねえ彼女、一人? もしかしなくても来たばっかりの迷宮探検者だよね」

「仲間いなくて困ってんなら、俺達と一緒に冒険しねえかい?」

近寄ってきたのは、剣を腰に携えた男、あからさまな竪琴をジョッキを持ってない方の腕で抱える男、そして小柄な男だ。みんなしてすでに出来上がっているのか顔が赤い。

「そりゃ、願ってもないことだけれど、詳しく聞かせてもらえない?」

「いいぜ、じゃあこっちで話そっか」

席を男たちの座るテーブルに移した彼女は、彼らの自己紹介を聞くこととした。

「俺はここに来る前は傭兵をやってたんだ。その地方でちょいと名のある剣士っつーことで通ってたんだぜ。ほら、これが俺の自慢の剣さ」

自称剣士は、そういって腰の剣を見せる。さすがに公共の場で抜き身を晒すことはないのでどういう剣かはわからないが、彼女の視線は剣を握る彼の手にいっていた。

「オラはニルシン地方生まれの吟遊詩人ダ。カーチャンとトーチャンの影響で歌を始めたっから、生まれてからズっと呪いまじないうた歌って喉鍛えられてるんダ」

少なくともこの近辺のものではない訛りで話す自称吟遊詩人。話す言葉一つ一つに彼女は眉をひそめる。

「そして僕は、まあデプスっすよ。もとはフラッツだったんだけど、シャドゥーズ様にこないだデプスにしてもらって。売りは棍術と魔術のコンビネーションっす」

デプスとは、簡単にいえばシャドゥーズ神の寵愛を受けた人間のことを指す。陽の光にめっぽう弱くなる代わりに、肉体と精神に神の力の一端を授けられ、他の種族を出し抜く実力を震えるようになる。自称デプスの説明を聞き流しながら、彼女は彼の首を見つめていた。

「どうだ。まだ迷宮に潜ったことはないが、同行するにはもってこいのメンツだと思うだろ?」

自称剣士は自信満々に彼女を誘う。

しかし、彼らのプロモーションは、彼女の心をまるで掴めなかった。

「……そうね。悪くない」

「だろう?じゃあ─」


 男の話を遮り、彼女は続けた。

「もしもみんなの話が『本当』だったら、二つ返事でついていったと思う。けれど、あなたたちと迷宮に潜るのはお断りさせてもらう」

 彼女ははっきりと、彼らの誘いを拒否した。

「な、なんでっすか!?」

「そんなのわかりきってることじゃない。『信用できない』から」

 彼女は席を立ち上がり、自称剣士の腕を指差した。

「剣士をやってた、ていうのは嘘みたいね。まあ、流派の違いがあるかもしれないけど、剣士なら基本的に利き手にマメができてるはずでしょう。その割には手の平がきれいすぎる。治癒術でマメを治したとしても、生半可なレベルの術では確実に痕が残る。痕が残らないようにするには一回手の平の皮をまるっと引っ剥がして、新しい皮膚を治癒術で生やすくらいしないと。でも、それをやったとしても腕に新しい皮膚と古い皮膚との境目のラインができるはず。それもないって、明らかに剣を始めて間もないってことでしょう」

「ギクリっ」

 剣の男はあからさまな動揺を見せた。

「そこの人の『ニルシン地方出身』っていうのも嘘でしょ? その訛り方は『アルプル地方』訛りだし」

「そ、それは、カーチャンがアルプル出身で……」

「ニルシン地方の訛りは、呪い歌の効力を引き上げるでしょうが。ご両親の影響で吟遊詩人になったのなら、むしろ効力に悪い影響を与えやすいアルプル地方訛りを矯正して、ニルシン地方訛りで呪い歌の練習をするはずでしょ?」

「……」

 男は静かにポロンと竪琴を鳴らした。

「それであなたはデプスではなくただのフラッツ。デプスには首の裏にシャドゥーズ神の紋章があるけど、これ左右反転してるじゃないの」

「えっと、それは……、か、神様が間違えたのかな?」

「神を疑える程度の信仰心じゃ、デプスになんてさせてもらえない。本物のデプスにあったら、あなた消し炭にされるよ」

「……ぐぬぬ……」

 男は言い返すことができなかった。

 実は、これらの知識は全て彼女が『夜の蝶』として名を馳せていたころ、自分を抱いた冒険者たちのピロートークから得た情報。娼婦になった理由は忘れても、無意識のうちに迷宮に関する有益な情報を、その手のプロから聞きだすことは怠っていなかった。

 だが、この情報が迷宮に潜る前に役に立つことになるとは彼女も想定外だったようだ。そしてこの場面で役に立ってしまったことで、若干残念な気持ちになっている。

「見栄張ることを否定するつもりはないけど、これから背中預けることになる相手に初っ端からおっきな嘘つかれたらたまったもんじゃない。私も初心者の手前言える義理ないけど、出直してきて」

 ストロイはすっかり酔いも興も覚め、元の席に戻ろうとした。


「待て! せっかく見つけた上玉だ、逃がすか─」

 嘘剣士は後ろから彼女の腕を掴もうとした。

「ふんっ」

 男の腕が届く前に、彼女は足を後ろに上げ、自らの踵を男の股間に激突させた。

「ぐうんぬぅっ!?」

 踵が突き刺さったのは、男に生まれた全ての人が背負う急所。

 いかなる強靭な肉体を得ても、ここを鍛えるのは不可能といえる宿命の場所。

 みぞおちを抉る感覚に酷似した激痛が走る。彼女は振り返り、耐えきれず蹲る男の顔面を、ちょうどいい高さに来たところで思いっきり蹴り飛ばした。

「ぶへぁっ!?」

 男は気持ちよさすら感じる勢いで吹き飛び、勢いそのままに近くのテーブルに叩きつけられた。同時にそのテーブルでアツアツに出来上がっていたカップルの雰囲気すらも破壊した。

「……これで伸びるって、ほんとに迷宮潜るつもりだったの?」

 深酒もあったのだろうが、股間の一撃と顔面の一撃で、嘘剣士は目を回して気絶してしまった。

「てンめえ、何しやがル!?」

 嘘吟遊詩人が竪琴を掻き鳴らして怒鳴る。竪琴からは曲にすらなってないめちゃくちゃな音が飛び散る。

「そっちが先に手を出したんでしょうが。って、せめて吟遊詩人ならこういうときも激しい曲鳴らしてよ」

「うるせえ!」

 嘘吟遊詩人は竪琴で両手を塞いだまま、ボロンポロンボロンポロンとやかましい体当たりをしかけてきた。しかしその軌道は直線的で、しかも目で追える程度の速さだった。

 彼女が少し体をひねれば、止まれぬ猪のような直進をもって楽しげに高笑いしていた冒険者たちのテーブルに激突した。

冒険者たちの宴は、先程の竪琴の音色のようにシッチャカメッチャカになる。

「オイゴラぁ! 俺らの飯になんてことしてやがんだ!!」

 激怒した冒険者たちは、そのまま伸びた吟遊詩人の胸ぐらを掴んで襲いかかる。目を回しながら激しく揺さぶられていた。

「体当たりって……。んで、そちらはどうされる?」

 嘘デプスをにらみつける彼女の目は、鼠を睨みつける蛇の形相に近かった。

「……で、出直してきまーす!!」

 嘘デプスは仲間を顧みずに、財布をテーブルの上に放り投げて酒場を飛び出していった。

 周囲のテーブルから聞こえる彼女への拍手をよそに、彼女は安堵と憂鬱が混合された深い溜め息をつく。

「ほんと、こいつらとパーティ組まなくてよかった……。おにいさん方、代わりのものなんでもおごるから手打ちにしてくんない?」 

 降りかかる火の粉を振り払っただけとはいえ、余計に炎上した場を諌めんと夜の蝶時代に鍛えたムードメーカー力が発揮される。

「おおう、んでもこいつは……」

「そいつに何したって構わないけど、落とし前は店の外でつけてやって。お兄さんの男前な技をこんなひよっこに見せるなんて役不足も大概だって」

「そうかい? んじゃあ遠慮なくごちそうになろうじゃねえの」

 大男の冒険者はけろっと機嫌を直して店員に料理を追加注文し始めた。

「そこの二人にもお詫びになにかおごるよ。ところでそこのお兄さん。男が飛んできたとき真っ先にそこの彼女をかばってたじゃない。反射的にそれができる男は完璧にいい男だよ。おねえさん、この人は間違いないよ、保証する。むしろ私が欲しいくらいだもん。邪魔してほんとごめんなさいね、良い夜を。『お幸せに』」

 カップルにもそう言葉を添えて去った。その言葉を聞いた彼と彼女は、先程よりも高い温度で愛の炎を燃え上がらせた。おそらく明朝まで延焼するものと思われる。

 

 元の席に戻り、自分も追加の酒を注文する。

「ほんと、今日はツイてないかもしれない。最近神様へのお祈りサボってたのが如実に出てるのかも。旅立ちの前に適当な神様の神殿で祈っとかないと……」

グラスに残っていたぶどう酒を飲み干し、覚めた酔いに火をくべる。


「ならば、『トゥルース神』に祈りを捧げることを推奨しよう」

 すると、背後から聞き覚えのある低い声が響いた。

 声に釣られて振り向くと、色つやの良い筋肉隆々の大男が、麦酒のジョッキを片手に立っていた。

「……あっ! 『グレゴ』叔父さんッ!? なんで!?」

 あまりにも久しぶりに見たせいか、過去の記憶の検索に数秒を要した。

名をグレゴリオという格闘家は、彼女の隣の席についた。


「一瞬見たときは気づかなかったが、声質からしてもしかしたらと思えば、やはりストロイだったかあ。元気にしてたか? 十年も経てば当然だろうが、本当に義姉さんに似てきれいになったなあ」

「いやまあ、それほどでも」

 素直に聞く褒め言葉が久しぶりで、うれしい気持ちがじれったい。

「ってかおじさんも以前以上に筋肉隆々になってない? 最近は何してるの?」

「格闘家をしててな、適当な格闘大会に出場して荒稼ぎしている。最近は迷宮都市を拠点にしていてな。ここの大会の出場者は質がいいし、賞金のレートも申し分ない……。という話はさておいて」

グレゴリオも空いたグラスを店員に渡して、新しい麦酒を注文した。

「お前こそ、里を出るような子では無かったと記憶していたが、よりにもよってなぜ迷宮都市に?」

「ああっと、まあ……」

 ストロイは口をつぐもうと思ったが、この気持ちを一字一句隠さず言える相手に飢えていたせいか、酒の酔いも相まって話す気持ちになった。

「……長くなるから覚悟して」

 ちょうど運ばれてきたおかわりのグラスを握り、一息に飲み干した後、手の甲で口を拭い、話し始めた。


彼女が事の顛末を全て話し終える頃には、積み上げた空のグラスは山を築いていた。

「そういうわけで……、私は迷宮に潜って故郷さとく」

 酔うと表現するには意識ははっきりとしすぎていて、シラフと呼ぶには顔が赤すぎる。酔うに酔えない憎しみの炎は、ぶどう酒を焚べると久々に燃え上がった。

隣で聞いていたグレゴリオは、何も口を挟むこと無く、ただ淡々と彼女の言葉を聞いていた。

「そうか……、あの風習か……」

 グレゴリオは、開口一番唸るような声で言った。

「やはりあのときお前も連れ出しておくんだったなあ……。義姉さんがあれで兄貴と結ばれた手前、否定しきれる自信は無くてな。しかし、よりにもよって相手が……、ああ……、ごめんな……ほんとうに、ごめんな……」

グレゴリオは目から大粒の涙を流し、彼女に精一杯の謝罪を始めた。

「お、おじさん……、いいから、いいから泣かないで……。おじさんが悪いんじゃないんだから、これから真の黒幕をすために迷宮潜ろうとしてるんだから」

ストロイは彼のスキンヘッドを撫でて慰める。

「俺が里を出たのは、あの里の『異常性』に気付いた故だったんだ……。あの里は一番近い別の里からも結構離れている。閉鎖された環境下で時代錯誤な悪習が横行していることに気づき、それに飲まれまいと俺は里を飛び出したんだ。できれば誰かと一緒に飛び出したかったが、みんなして里の雰囲気に染まりきってどうしようもなくて一人で出ることにしたんだ……。攫ってでも、お前を連れ去っておくべきだったのに……」

「いいんだよ。それをされても、おじさんに恩を感じられなかっただろうし」

いつの間にかストロイがグレゴリオを慰めるあべこべな状況になっていた。


「別にね、『夜這い』掛けられることには何とも思ってなかったの、正直言って。むしろ、『あっあの子、意外にも私のことを好きだったんだ。やったわ、私に夜這いかける度胸を見込んで、私の婿にしてやろう』とか舐め腐ったこと考えてたの。もっと私の『初めて』は、もっとこう、ロマンティックに、意外性や運命らしさを内包した、これからの私のバラ色ライフを約束する素晴らしい夜になると思ってたの」

 閉店が近いために複雑な笑顔になっている店員から、注文したグラスを受け取ると、一息で飲み干した。そして、腹に溜め込んでいた呪詛を、まるで竜が火を吹くように吐き出した。

「だけどさ、あれ、結局里の権力者から順に相手を選ぶって習わしじゃん? 自分がマークしてた男の子たち、尽く立場弱かったから、その夜這いの季節になるまで嫌な女を演じて、わざと残り物になるようにたち振る舞ったのに……。あろうことか、一番に選ぶ族長の息子の……、あの『ろくでなし』に目をつけられるなんてッ……!!」

 グレゴリオの涙が止まらぬことを無視して、高ぶった気持ちは彼女の本音を吐き出させる。

「教科書通りすぎて燃えないし独りよがりに腰振ってるせいでぜんっぜん気持ちよくなかったし自分だけ気持ちよくなっていやがるし拒絶するたびに勝手に燃え上がるマゾ野郎だし挙句の果てに、私が嫌な女演じたのが完全に裏目に出て『あ、こいつ権力者との玉の輿狙ってたんだなきたねえ女』とかあとで風評被害受ける始末だしイイイィィィアアアアアアッ!!」

 この長々とした言葉をほぼ一息で言い終えると、彼女もうっすら瞳に涙を浮かべて、カウンターテーブルに右頬をくっつけた。 

「……私がこのことを涙ながら訴えても、お母さんは『あらおめでたいわ。お赤飯炊きましょう』って言ってくれやがったの。それ聞いてもう、居ても立っても居られなくて飛び出したんだから……」

 溜めていたものを排出しきったせいか、気持ちは落ち着きゆったりとした心地よさを感じる。

 しかし彼女の話を永遠と聞いていたグレゴリオは、まるで自分が犯した罪を裁判長に読み上げられているかのような気分になっていた。

「……おじさんだけだよ、涙流すほどに私を哀れんでくれるの……」

 単にさわり心地が良いらしく、グレゴリオの頭を撫でるストロイ。

「……わかった。実は俺も、故あって闘技大会にしばらく出場できん。だからお前の迷宮探索に力を貸そう。こうみえて『聖騎士の才能』と『支援の才能』を持ってるからな。とりあえず2人で低階層を探索して力を磨かないか」

 涙を拭い、腫れた目でグレゴリオはそうストロイに提案した。

「確かに、実力を磨いてから同行者を募ったほうが質の良いメンツが揃いそう。それにまだ戦闘については心許なかったし。おじさんが同行してくれるなら、低階層程度なら随分と安全に探索できそう。そうしましょう」

 こうして彼女たちは、自らの故郷を何らかの方法で滅するために、数々の冒険者を飲み込んでいった迷宮へと歩を進めていくのであった。



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故郷(さと)に復讐(にしき)を飾りたくて パンクぽっぱー @PankPoPaaa

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