第107話 緊張を見せる背中。いざ、戦場へ

「全員、自分たちが誰と戦うのか確認できたな。よし、試合開始は10分後とする。最初に戦うのは、シルのグループと、えぇとヴェーダのグループだ。それぞれ、時間までに持ち場についておくように」


 大佐はそう言い締めると、颯爽と新入生の前から姿を消していった。あまりにも早い退散。シルの周りからは、動揺の声もしばしば上がっていた。だが、シルはそんなことに気を配ることは一切ない。探していたのだ、あのチームがどこに配置されているのかを。


「マシュのところは⋯⋯ どこのグループと戦うんだ?」


「あそこよ、シード枠。流石と言ったところかしらね」


 隣に立ち、指で指しながら教えてくれるのはアンだった。彼女が教えてくれた先には、確かにマシュのチームの名前が書かれている。シード枠、上方向に登る矢印を逆算すると、マシュと戦うのは最低でも決勝戦まで勝ち進める必要があった。


「ひとまず、マシュのことは考えなくてもよさそうだな」


「えぇ。それより、マシュ君のこともいいけど、私たちのことを第一に考えてよね。勝ち進めなければ、彼との戦いもないんだから!」


「ごめんごめん。ちょっと気になっただけだよ。戦いの意識は100%、俺たちの戦いの方に向いているから。逆に、気合が入りすぎて申し訳ないくらいだよ。相手にね」


「その揺るがない自信が羨ましいわ、本当に」


 アンはその言葉を残すと、シルをその場に置いて前を歩き始めた。戦いの場へとその身を進めるのだ。彼女の背中からは、まだ心で燻る緊張感が拭えていないように感じる。背筋がいつもより屈折を見せ、顔が前に突き出されている。あまりに僅かな変化で他の人では気づいていないだろうが、同じ時間を共有してきたシルの目には、それは確かな違和感として映った。


「でも、彼女はそれでもやれる人だからな。ほんと、強い人だよ」


 シルは頼りない背中に言葉をぶつけると、それ目指してかけていった。


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