第105話 現れたトーナメント表

「なお、対戦する順番は私の独断と偏見を持って決定した。異論は認めない、納得しろ。前方をよく注視しておけ」


 大佐はそう言うと、胸ポケットを探るように手を突っ込む。そして、上着の下で何度か上下に手を移動させると、目当てのモノを掴んで再び外に出てくる。遠目が故に、正確にそれが何なのか分からない。だが、少なくとも武器の類ではないことだけは明白であった。


「よし、これでお前たちにも見えるはずだ」


 ピッという機械音が静かにグラウンドに響き回る。しかし、そんな小さな音は一瞬にしてかき消されることになる。新入生から沸き起こる歓声によってだ。


「うわぁ!! なんなんだ、これは!!??」


「こんなの見たことない⋯⋯ !」


「一体どれだけの技術がこの場所には、秘められているんだ⋯⋯ ?」


 それぞれの場所から、湧き上がる驚嘆にも似た歓声から、言葉にならずに空気として漏れる声。各々が取った反応は多様なものであった。だが、それらに共通することが一つあった。それは、アーミーナイトが持つ力の巨大さへの羨望。不可能を可能に変える力がここに集約されていることを、ひしひしと目の前で起きている現状から、感じ取っていた。


大佐と新入生達がいる場所を隔てていた虚無の空間。そこに、突如として巨大なトーナメント表が投影されたのだ。まるで、そこの空間全てがスクリーンに変貌したように。盾の長さはどれほどあるだろうか。少なくとも、前に立っている学生の影に入ってしまい、見えないなんてことはない。


 トーナメント表に視線を移すと、下層のところに五つのペアが縦向きに書かれていた。二つ一セットで括られており、仲間はずれのように一つのペアだけが横に弾かれている。言い換えれば、あれはシード枠とも言えるだろう。それを証明するように、そのペアだけ少し長めの線が上方向に伸ばされていた。


とどのつまり、一回戦は二つのグループによる模擬戦が行われることらしい。そこの勝者同士が一つ上にコマを進めることができるのだろう。しかし、二つのグループが纏められたセットを見ていると、ふとシルは違和感を覚えた。


「これってさ、一回戦の勝者となる二つのグループと、シード枠の一グループで二回戦を戦うってことだよな? そしたら一つのグループがまた余ってしまうんじゃないのか?」


 隣に立つアンに尋ねると、さっとアンはシルの耳の近くに顔を寄せる。


「一回戦で戦うところの括られたところから、下に線が伸びているでしょう? 二つの戦闘の敗者が敗者復活戦をして、そこの勝者がまた2回戦に上がってくるのよ。きっとね」


「なるほど⋯⋯ 」


 言われてみれば、アンの言った通り一回戦のところから下に線が伸び、それぞれが下で交わっていた。しかし、トーナメントの仕組みが分かっても、シルの中で何も変わる事はない。それどころか、より一層モチベーションに火がついたほどだ。


「私たちはシード枠じゃないのね⋯⋯ 。もしかしたらって、淡い期待をしてたんだけどね」


 アンに言われて、シルは自分たちの名前が書いてある場所を探し始める。言っても、チームが五つしかない。探し始めると、それはすぐに見つかった。


『シル・バーン、アン・オーウェル・ラザームVSヴェーダ・カーラ、アーノルド・ユア』


 スクリーンから目を逸らし、シルは首を左右に振った。何かの視線を強く感じたからだ。闘志を通り越して、殺気すら放つ勢いの視線。それが誰から放たれているのか、シルにはすぐに分かった。スクリーンとは全く別の空間上で、シルとカーラの視線は激しい火花を散らしたからだ。




 

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