第103話 心がこもっていないよ!

「ごめんって言ってるじゃん〜! もう、怒らないでよ!」


「いや、さっきから何度も言ってるけど別に怒ってないから」


「その態度は怒ってるって!! ごめん〜、どうしても話の内容が気になってさ。私たちの代で最強の二人が密談するんだよ? 気になるって!」


「最強とか言われているんだ・・・」


 両手を擦り合わせながら、お茶目な微笑みを浮かべている。口では謝罪の言葉を述べているが、心がこもっていないことは明らかだ。その証拠に、今も緩み切った口元から白い歯が眩しく光っていた。それは、部屋の扉を開け、部屋に入ってからより鮮明に見えるようになる。


しかし、アンが口早に並べる言い訳のレパートリーの多さ。それは感心に値するほどであった。ツラツラと述べているが、その実どれも本心から出ている言葉でないことはわかりきっている。別に怒ってはいないが、最強の二人とか言われても気分が良くなるもんじゃないだぞ? いや、決して怒っているわけではないが! 


「それはそうでしょう? この模擬戦の中でも、優勝候補に上がっているのがシルとマシュ君いるグループなの。つまり、私達と、マシュ君とクォーツ君のグループの二つね」


「他にも手こずりそうなグループは多いと思うけど、そういう風になっているんだ。それは興味深いね」


「冷静ね〜。優勝候補とか呼ばれて、少しは緊張とかしないものなの?」


 尋ねるアンの顔を、シルは笑みを浮かべぬ真剣な顔で見つめ返す。あまりにも真顔だったからだろうか。アンは背筋をピンと伸ばして、次のシルの言葉を待つ姿勢を取った。


「しないよ。だって、実際に俺とアンのチームが敗北するシーンをイメージできないから。連携も完璧、作戦だって隙は見当たらない。これで、どうやったら負けれるのかって話だよ。それに——」


「それに?」


 問い返すアンに今度は、満面の笑みで言葉を返す。


「俺は、、からさ。そのためにできる努力なら、なんでもするさ」


「死んでもなんて物騒な話をしないでよ。でも、負ける要素が見当たらない、って言い切ってくれるのは頼もしい限りだわ。でさ、ところでね・・・」


「うん? 何かまだ言いたいことでもあるの?」


「結局さ、二人でどんな話をしてたの?? 教えてよ〜!!」


「はぁ、その言葉で一気に頭が痛くなったよ」


 シルは、額に手を押さえながら、頭を振るしか行動が取れなくなってしまうのであった。





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