第70話 悲鳴というスパンコール
ブゥシュゥ・・・!!
赤い鮮血が重力に逆らって空中に巻き上げられる。その血の出どころは分かっている。ハンナだ。倒れ込み、その場から動くことが叶わない彼女に対して、悪魔の攻撃は正に無慈悲と言わざるを得ない。
だが、悪魔にそのような感情は持ち合わせていない。彼女らにあるのは、殺さなければ自分が殺される、という弱肉強食の世界で生きていく強い決意だけだ。いつの間にか、多くの人の視線がハンナに降り注いでいた。
そのことに、悪魔は気づいていただろうか。詳しいことは分からない。だが、悪魔は、これはあくまでショーの序章に過ぎない、と言わんばかりに一番残酷な方法で、ハンナを殺してみせた。
悪魔の尻尾は、グラウンドに寝そべったハンナを正面から貫いて見せたのだ。それは、頭からハンナの身体に接触し、背骨を半分に折るように突き進み、尻の部分から貫通。結果、ハンナの身体は丁度真ん中で半分で切断され、見るも無惨な肉片に成り下がる。
そこには、先ほどまで明るく、誰に対しても笑顔を浮かべ接していた彼女の姿はない。目は生気を失い白濁し、切断面から体内の臓器から、骨に守られていたものから全てが赤い血液と共に、外に流れ出ている。
人の感情を持っているならば、それは誰もが一目見るだけで、吐瀉物が胃の奥から出てきそうになるほどの嫌悪感が芽生えるものであった。それを証明するように、悪魔の遥か前方で固まっている新入生たちの集団からは、割れんばかりの悲鳴が鳴り響いている。
それは、連鎖のように。一人が声を上げれば、それが増幅されてまた別の人が声をあげる。そして、最終的にそれは集団全部を悲鳴で覆うのだ。しかし、その悲鳴すら、歓声のように悪魔の耳には響いていた。心地よいスパンコールのように、拍手すら求めてしまいそうになるのを、悪魔は必死に感情を押し殺した。なぜなら、彼女にはまだ成すべきことが多く残っているから。
もちろん、狙いは決まっている。悪魔は目線を——大型バスに向けるのであった。
「こっちを向いてない? あの悪魔・・・」
先ほどまで一列になってバスに向かっていたのが嘘のようだ。気が狂ったかのように我先に行動を起こす新入生と実行委員の人に肩をぶつけられ、身体がよろめく。アンは鼓膜が破れそうなほど沸き起こる悲鳴を掻い潜り、悪魔の方をじっと見つめていた。そして、この場にいる誰よりも早く気づくのだ。次の狙いは私たちであると。
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